「10.2決戦」の涙をチームの糧に。かつての「切り札」の9年目に注目

2017-12-17 00:00 「パ・リーグ インサイト」編集部

走者を背負った場面で飄々とマウンドに上がり、踊るようなサイドスローから投じるストレート、抜群の制球力で鮮やかにピンチの芽を摘み取る。3年前、62試合に登板して驚異の防御率0.79を叩き出し、オリックスの「切り札」と称された投手がいる。今季プロ8年目のシーズンを終えた35歳、比嘉幹貴投手だ。

2014年のペナントレース。オリックスと福岡ソフトバンクは熾烈な優勝争いを繰り広げていた。大型補強を敢行し、開幕前から有力な優勝候補に挙げられていた福岡ソフトバンクは、前評判通りの強さで首位に立つ。一方、2年連続でリーグトップのチーム防御率を記録することになるオリックスは、その鉄壁の守りを武器に快進撃を見せ、福岡ソフトバンクを脅かし続けた。9月30日の時点で首位の福岡ソフトバンクにマジックは点灯せず、10月2日の直接対決の結果によってリーグ優勝が決定する白熱の展開となる。

この年のオリックスの躍進を支えた1人として、比嘉投手の名を挙げる人は多いはずだ。プロ5年目だった比嘉投手は、2013年から2年連続で最優秀中継ぎに輝く佐藤達也投手、絶対的守護神である平野佳寿投手につなぐ重要な役割を務め上げ、最終的には62試合7勝1敗20ホールド、防御率0.79という圧巻の成績を残す。疲労が溜まるシーズン後半には、パ・リーグタイ記録となる34試合連続無失点もマークし、18年ぶりの優勝に向かって邁進するチームを献身的に支え続けた。

しかし2014年の10月2日、福岡。「10.2決戦」と呼ばれたあの運命の一戦。ここで勝てば優勝の可能性を残すオリックスと、即優勝が決定する福岡ソフトバンクは球史に残る熱戦を繰り広げ、1対1の同点のまま試合は延長戦へともつれ込む。それまで幾度となく完璧な救援を披露し、当時の森脇監督から「切り札」と称されていた比嘉投手の出番が訪れたのは、その延長10回裏1死満塁。サヨナラのピンチの場面だった。福岡ソフトバンクの打者は、奇しくもこの直前に「俺が決める」と宣言していた松田宣浩選手。

結果的には、比嘉投手の4球目を捉えた松田選手のサヨナラ打で、福岡ソフトバンクのリーグ優勝が決定することになる。鉄壁のブルペン陣を擁し、その自慢の戦力をつぎ込んで最後の最後まで食らい付いた末のサヨナラ負け。福岡ソフトバンクの歓喜の瞬間を目の当たりにし、顔を上げられないほど泣き崩れるオリックスの選手も少なくはなかった。マウンドで呆然としている比嘉投手の姿が映し出されたとき、ここまで何度もチームを救ってきた右腕の胸中を思い、涙したファンも多いのではないだろうか。

しかし、18年ぶりの頂点を逃した悔しさを晴らすために挑んだ翌年、オリックスはまさかのリーグ5位に沈む。比嘉投手自身も右肩痛に苦しめられ、あの日のリベンジのチャンスさえつかむことができない。夏には全治5カ月という右肩関節唇の修復手術に踏み切り、長いリハビリ生活を送ることになった。

一軍のマウンドに戻ってきたのは、2016年6月12日。復帰登板からしばらくは安定した投球ができなかったが、7月10日から8月24日にかけて、10試合連続無失点と復活の兆しを見せ、8月10日の福岡ソフトバンク戦では2014年の9月7日以来、実に703日ぶりとなる白星を手にする。そしてプロ8年目を迎えた今季は、昨季より少ない8試合の登板に終わってしまったものの、ファームでは43試合に登板して防御率1.02と、新進気鋭の若手が多い投手陣の中で、さすがの貫禄を見せ付けている。

今季、オリックスのチーム防御率はリーグ5位の3.83だった。2年連続でリーグトップのチーム防御率を記録し、12球団屈指の投手王国を築いていたのはもう過去の話になりつつある。だが2014年の悔しさを晴らすためには、その王国の再建が必要だ。幸いファームでは期待の若手投手たちが、ウエスタン・リーグトップのチーム防御率をマークしている。ファームで過ごす時間が長かった比嘉投手も、悩む後輩たちに積極的にアドバイスを送り、チーム力の底上げに寄与しているという。比嘉投手のようなベテランの経験と、若い力をかみ合わせて。来季こそはあの日のような涙ではなく、「22年」分の笑顔を見せてほしいものだ。