数少ない2008年V戦士。栗山巧選手とともにもう一度勝利の美酒を

2017-12-28 00:00 「パ・リーグ インサイト」吉田貴

2012年から埼玉西武のキャプテンを務めていた栗山巧選手は、昨オフ、その胸のCマークを浅村栄斗選手に譲った。まだ若く、キャプテンタイプではないと言われ続けた浅村選手も、人生初の肩書きに四苦八苦しつつ、昨季までとはひと味違う姿を見せてくれた。だが、栗山選手が埼玉西武に欠かせない存在であることは変わらない。キャプテンの座を退いたからこそ、今季は改めてそう思わされることも少なくなかったのではないだろうか。

栗山選手は今年で34歳。生粋の「神戸っ子」であるが、16年間埼玉西武一筋を貫いている。三振が少なく粘り強く、広角に打ち分けられる打撃、優れた選球眼、ここ一番での集中力。そして何より、徹底した自己管理によってシーズンを戦い抜くプロ意識の高さが、栗山選手の最大の魅力だ。その姿勢がチームに与える好影響は計り知れないほどで、グラウンド内外における栗山選手の貢献度を、単純な数字で表すことはできないだろう。

ただ、そんな確かな実力と「日本のジュード・ロウ」と称されるほどの端正なマスクを兼ね備えながら、いぶし銀のプレースタイルのためか、2015年までオールスターゲームの出場経験はなかった。しかし、2016年に初出場を果たすと、初打席で劇的な初本塁打を放つ。シーズン中はチーム事情に応じてさまざまな打順を任され、多くの制約がある中で黙々と自身の役割を果たしてきただけに、思いきりバットを振り抜いた末の豪快アーチは、まさに「プロ野球ファンの誰もが喜ぶ一発」となったと言っていいだろう。

そしてCマークを外して迎えた今季、栗山選手は一選手として、好調なスタートを切った。開幕直後の4月7日の福岡ソフトバンク戦では、早くも節目の1500試合出場を達成する。しかし、翌日、遊ゴロで一塁に駆け込んだ際、一塁手・内川聖一選手との激しい交錯を回避しようと身体を投げ出し、右足を不自然に捻ってしまう。さらに勢い余って地面に叩きつけられ、すぐには立ち上がることさえできなかった。のちにふくらはぎの炎症と診断されたが、以降、代打あるいは守備に就かない指名打者としての出場機会が増加することになる。

だが、栗山選手が真価を発揮したのはここからだ。5月21日の福岡ソフトバンク戦では、同点で迎えた9回に打席が回ってくると、ここまで18試合連続無失点を記録していた岩嵜翔投手の甘く入った直球を見逃さなかった。捉えた打球はバックスクリーン右に飛び込み、プロ16年目にして自身初のサヨナラ弾となる。

さらに、多くの埼玉西武ファンが今季のベストゲームに挙げるだろう8月17日の楽天戦。圧倒的な強さを見せた「炎獅子」ユニホーム着用試合の最終戦。エース・菊池雄星投手と、相手先発・安樂智大投手が息詰まる投手戦を繰り広げ、両チーム無得点のまま試合は最終回へ。そして9回裏2死1,2塁、真っ赤に染まったメットライフドームに「代打・栗山巧」のコールが響く。

大歓声の中、栗山選手はカウント0-0から、ハーマン投手の152キロの直球を迷わず振り抜いた。「とにかく外野の頭を越えてくれ」と願った打球は、ファンの声援の後押しを受け、その向こうの左翼席へ。頼もしい若獅子の台頭が多分に影響していたに違いない「炎獅子」の快進撃。それが、出場機会が減る中でも準備を怠らないベテランの一発によって、ひと時の勢いにとどまらない「伝説」となった瞬間だった。

サヨナラ男としての風格が身に付いたのか、9月17日の福岡ソフトバンク戦では押し出し四球で今季3度目のサヨナラ。ただ、終わってみれば116試合84安打9本塁打46打点、打率.252という成績で、10年ぶりに規定打席に到達できなかった。それでもその勝負強さと雄弁な背中は、チームの4年ぶりのAクラス入りに確かな貢献を果たしただろう。

2018年、埼玉西武は球団創設40周年を迎え、4年ぶりに「ライオンズ・クラッシック」が開催される。そこでは2008年の栄光のユニホームも復活するという。栗山選手は、その年のリーグ優勝・日本一を知る数少ないベテランの1人だ。あれから、10年もの月日が経過しようとしている。当時の若手はベテランに成長し、そして多くのV戦士が、志を次世代に託してユニホームを脱いだ。あの歓喜を知るベテランと、まだその味を知らない若獅子と。双方の力をかみ合わせて、もう一度頂点に上り詰めるという悲願。それがついに叶ったとき、その輪の中心には、埼玉西武が誇る「背番号1」がいなければならない。