カーター・スチュワート投手との契約成立の立役者、代理人の仕事 前編:メジャーリーグ・エージェンシーが語る「代理人の役割」とは

2019-06-12 09:00 中島大輔

 6年総額620万ドル(約6億8200万円)の最低保証で、出来高込みで最大1200万ドル(約13億2000万円)――。

 福岡ソフトバンクがアメリカ人の19歳投手、カーター・スチュワート選手と結んだ巨大契約がビッグニュースとなっている。驚かされるのは報じられる契約内容だけでなく、2018年にアトランタ・ブレーブスが1巡目指名した逸材がプロキャリアのスタートに日本を選んだことだ。

 そんなビッグディールが結ばれた裏で、注目を浴びた“もう一人”がいる。代理人のスコット・ボラスだ。その辣腕は全米に名を轟かせ、菊池雄星のシアトル・マリナーズ入りへ導いた人物として日本でも注目を集めた。

 日本球界で代理人が表に出ることは珍しいが、契約の裏でどんな役割を果たしているのか。また、今回のスチュワート選手の移籍は日米の野球界で軋轢につながりかねないと報じられるが、専門家の目にはどのように映っているのか。

 メジャーリーグで活躍した田口壮(オリックス一軍野手総合兼打撃コーチ)や大家友和(DeNA二軍コーチ)、巨人でプレーしたマイルズ・マイコラス(セントルイス・カーディナルス)を担当してきたオクタゴン社の長谷川嘉宣氏に訊いた。

――日本で「代理人」という職業は馴染みが薄いですが、どんな役割を果たしているのですか。

長谷川 簡潔に言うと、選手がパフォーマンスを発揮できるための環境をつくるのが仕事です。例えば日本人選手がアメリカに行く場合、当然契約内容が大事です。加えて選手たちは生活環境を全部自分で整えないといけないので、家族も含めて住環境のセッティングを手伝います。銀行の管理など、お金の管理も行いますね。

 グラウンド面で言うと、選手が思うような結果を出せないときや、チームの起用法に問題がある場合、あるいはケガをしたとき、エージェントがチームと話をします。逆に、チームはエージェントをうまく利用する。選手に直接言うとカドが立つ場合、チームがエージェントに話をして、エージェントから選手に話をする。なぜなら球団、選手、エージェントのゴールは一緒で、「選手が活躍すること」です。いい球団であればあるほど、「そのための3者」という関係が成立しています。

 また、弊社では外国人選手を日本のプロ野球に“送る”という役割もあります。そのときにはまず、球団と交渉を行います。生活環境については、日本人がメジャーに行くときと違い、チームが全部やってくれます。起用法で何かあった場合、メジャーのようにエージェントが現場に連絡することは基本許されていません。国際部(外国人の獲得を担当する部署)まではOKですが、そこから現場に話をして……とはなりません。だから、解決できないことがほとんどです。そのため代理人としては選手にできるだけ前向きに頑張れるように言うしかありません。

――オクタゴン社の契約選手で言えば、マイコラス投手は巨人の3年間で2度二桁勝利を飾った後、メジャー復帰した昨年最多勝に輝きました。代理人の立場から、マイコラス投手の成功例はなぜ起こったと思いますか。

 来日1年目の5月まで状態があまり良くなかったのですが、原(辰徳)監督が使い続けてくれたのが大きなきっかけになったと思います。エージェントの立場から見ると、日本に来る外国人はほとんど活躍できる可能性がある。彼らは適当に、日本の球団を選んでいるわけではないと思うので。本来、活躍できる能力を持っているはずなのに、チームが活躍できる環境をつくっていないだけなんです。特にシーズンが開幕したばかりの4月に状態が良くなかったら、すぐに二軍に落とされることがあります。でも新外国人選手の立場から考えると、球場、マウンド、ボールともに新しい環境です。新しい環境でいろいろ経験して、それが次の活躍につながっていきます。でも球団によっては、慣れる前に二軍に落とされてしまう。それが、「活躍できる環境をつくっていない」ということです。

 私がよく球団の方々に言うのは、「メジャーリーグの下に3Aがあります。日本はどこに位置しますか?」。3Aの下か、3Aとメジャーの間か。日本に来る多くの外国人選手はメジャーの40人枠に入るか、外れるかというレベルの選手なので、つまり3Aとメジャーの間、“4A”のレベルです。そういう選手がNPBに来てすぐに活躍できるとすれば、NPBは3Aの下のレベルと捉えていいと思います。実際、日本の球団の現場の方々は「来たらすぐに活躍する」と思っていますが、「ということは、日本のレベルは3Aの下と考えればいいですか?」と聞いたら、「そんなに低いレベルではない!」と怒られます。私自身、3Aより上だと思っています。そうだとしたら計算上、来日してすぐに活躍するはずがないんです。

 日本人選手がメジャーに行くとき、メディアの皆さんは「マウンドやボールは大丈夫ですか?」と気にかけますが、外国人選手が来ても同じ問題にぶち当たっています。でも、そんなことはメディアに一切取り上げられないし、現場もわかっていません。活躍しないと、「ダメガイジンを連れてきた……」となるけれど、もう少し我慢して使ってほしいと思います。

 マイコラスの場合、正直、あそこまで活躍するとは思いませんでした。それが活躍できたのは、ひとえにジャイアンツがずっとチャンスをくれたからです。マイコラスはアメリカでは主に中継ぎ・抑えの投手でした。先発投手としての経験値は低い投手でしたがジャイアンツで先発投手としての経験を積むことができたのがその後の飛躍につながりました。一方で2008年から2年間広島でプレーしたコルビー・ルイスの場合をお話しすると、彼は広島に来る前、3Aで圧倒的な成績を残して、メジャーに上がると打たれた。その繰り返しを経て日本に来ました。すると日本に来て自信を持って投げた球が、バッターに打たれなかった。それで自信をつけてメジャーに復帰しました。向こうで何をしたかと言うと、日本とまったく同じピッチングをしたんです。そうして2010年に12勝を挙げると、翌年14勝をマークしました。来日前と、日本を経て向こうに戻ったときの唯一の違いは、自分自身だったんです。日本人選手のメジャーでの活躍もそうですが、ルイスとマイコラスの活躍は日本のプロ野球のレベルの高さをあらためて知らしめた例だと思います。

――日本人がメジャーで適応するのに一定の時間がかかるのと同様、外国人選手が日本に来る場合も同じことだと理解する必要がありますね。

自分が担当した田口(壮)さんや大家(友和)さんなど、マイナーでもがいてメジャーに定着した人たちは、マイナーのレベルの高さも大変さもわかっています。自分たちがアメリカで経験したのと同じことを、日本に来るアメリカ人はすることになるので、「彼らは絶対に苦労する。1年間だけで判断してはいけない。2年間は見てあげないといけない」と、2人とも共通して言っています。アメリカから来てすぐに活躍できるほど、日本のレベルは低くない、と。

 球団から「じゃあ、それ以上の選手を獲ってこい」と言われたら、そういうレベルの選手はメジャーのチームが抱えているので、経済的な観点からもなかなか難しい。だから逆転の発想で、私が10年間言い続けているたのは、「だったら、大学生を獲ればいいじゃないですか」。たとえるなら今回、福岡ソフトバンクがカーター・スチュワート投手を獲得したような方法です。

【後編に続く】