選手の成長を共有する喜び。
埼玉西武ライオンズ 二軍チーフトレーナー 中村和将さん【パ・リーグお仕事名鑑 Vol.3】

2019-08-12 12:00 「パ・リーグ インサイト」編集部

グラウンドの上で輝く選手やチームを支えているのはどんな人たちなのか。パ・リーグで働く全ての人を応援する、パシフィック・リーグオフィシャルスポンサーのパーソルグループと、パ・リーグインサイトがお届けする「パーソル パ・リーグTVお仕事名鑑」で、パ・リーグに関わるお仕事をされている方、そしてその仕事の魅力を紹介していきます。

データと感覚、どちらも大切

 トレーナーの仕事をシンプルにいえば、選手が最高のコンディションで最高のパフォーマンスを発揮できるように身体面のサポートや指導をすること。特に連戦が続き、一方で日々成長のための練習が欠かせないプロ野球選手にとっては、疲労回復やリハビリ、怪我の予防のための取り組みは必須。

 埼玉西武ライオンズでは、2019年1月より球団本部内に「メディカル・コンディショニンググループ」を発足。同グループはトレーナー、リハビリ担当、S&C担当、そして、管理栄養士あわせて9名からなり、今回お話をうかがう中村さんは二軍のチーフトレーナーとして、トレーナー部門を率いる。

 日々どのような姿勢で取り組んでいるのだろうか?

「何気ない変化にもトレーナー全員が気づかないといけません。例えば夏。練習前と練習後に体重の変化を測定し、脱水症状が起こってないかを確認。その状態を解消し元の状態にして翌日に臨めるようにする。こうした気づきのために、日々の食事の量、体温、脈拍などを選手が入力をして、そのデータをすぐにチームで共有できるようにしています」

 データを活用することでチーム全体として細かい変化も見逃さない。データによる気づきだけではなく、日々積み重ねた、選手との密なコミュニケーションがあるからこその気づきも大切。

「例えば朝、選手は散歩をして、朝食をとるのですが、その際に顔を見れば、そこからわかることもあります。それは普段から選手とはよく話しているから。選手にとって我々がケアをする時間や、トレーニング室は数少ないリラックスできる場。選手たちからもいろいろ話しをしてくれるんです」

 トレーナーと選手の信頼関係から生まれる「気づき」。しかし、選手によって抱えているフィジカルの問題や目指すべき体づくりは大きく違う。特に二軍ともなればより複雑だ。高卒ルーキーから、若手の育成、一軍定着を目指す中堅選手、さらにはケガやコンディション不良、チーム事情で二軍にいるベテラン野手や一軍で活躍する投手まで。信頼関係を築くためにどのような気持ちで臨んでいるのだろうか。

「どの選手にもいえることなのですが、その選手のやり方を否定しないこと。即戦力で入ってくるような選手は、ある程度自分の中のルーティーンでやってきているものがあって、それも大切にしてあげなきゃいけない。もちろん高校卒業したばかりの選手でも、今まで教わってやってきたことで結果を出してきた。それは大事なものでもあるので、それを踏まえてアドバイスしていきます。でもいろいろあるからおもしろいですよね」

 疲労の蓄積、成長の過程、ゲームがある日とない日に出場できた日に出場できなかった日、雨の日と晴れの日、活躍した翌日と落ち込んだ翌日……トレーナーと選手の体との関係は日々刻々と変化する。この変化を積み上げることですぐに今日の変化に気づくことができる。そして朗報。素晴らしい環境が加わった。7月に完成した室内練習場と寮などの最新施設だ。

「トレーナー室、トレーニング室、寮が一体化したのは大きい。何やってるのかがすぐに把握できます。選手、コーチ、我々とチーム全体が揃っているので、気になっていることをドア1枚開けるだけで話すことができる。この環境はやりがいもありますね。いいものをどんどん提供していきたい。もちろんその分成果を出さなければいけませんね」

 新しい施設での「やりがい」。09年から埼玉西武ライオンズに加わった中村さん。まだまだここでやるべきこと、やりたいことは広がっているようだ。では、中村さんはどのようなステップでこの仕事に就いたのかだろうか。意外にもそれまでは野球の経験も知識もなかったのだという。

新しくなったトレーナー室の様子。撮影:沼田悟

新しくなったトレーナー室の様子。撮影:沼田悟

チームの一員としてのやりがい

 中村さんは、大学までバスケットボール部に所属。卒業後も競技を続けたいという思いはあったと話す。

「選手でやれるのが一番だけど、それはなかなか難しい。それでも現場で、選手の近くで一緒に一喜一憂したかった」

 競技ではなく現場にいられる仕事。そう考えて目指したのがトレーナーだった。トレーナーは人の体に触れる仕事だけに、鍼灸あんまや柔道整復、PT(フィジカル・セラピスト/理学療法士)、といった国家資格や、AT(アスレチック・トレーナー)といった民間資格が必要。中村さんも卒業後は、資格取得を目指して勉強を続け、トレーナーを派遣する会社で働きながら資格を取得。ここでさまざまな競技を経験する。

「バスケットボールは2チームで8年。野球も単発では何回か。ほかに陸上の女子長距離チーム、女子プロゴルフのパーソナルトレーナーなども担当しました。野球もそうだったのですが、陸上もゴルフも最初はまったく知らない世界でした。監督やコーチとコミュニケーションをとりながら経験を積んでいきました」

 競技はもちろん、男女、瞬発系、持続系、さらにチームが変われば方針、選手の意識、目指すものも違う。こうした幅広い経験もまた今に生きているのだ。さて、それでも野球の経験がそれほど豊富ではなかったが、いきなりプロ野球。ハードルは一気に上がる。

「会社の先輩もライオンズでトレーナーとして携わっていたので、それがきっかけでした。プロ野球のイメージは、日本でトップのスポーツで、選手たちも日本でトップ。しかも私が入った2009年は、ライオンズが前年に日本一になった年。正直言うと入る前は恐いと思ってたんです(笑)。それがみんな話しやすいし、優しかった。今の渡辺久信GMが当時の監督だったんですが、すごくフランクに話してくれたのを覚えています」

 常勝軍団のライオンズ。ファームでも選手の意識は高かったのではないだろうか。

「その部分では緊張感がすごかったですね。ベテラン選手も結構いましたし、層が厚くて一軍に上がれない選手も多かったですから。そういう選手も今スター選手になっている。毎日緊張しながら仕事はしてましたね」

 こうした層が分厚いなかから成長していく選手。その成長を支えるトレーナーという仕事。中村さんにとってのやりがいとは。

「若い選手が成長して一軍で活躍してくれる。うれしいですよね。私も二軍での仕事の後、そのままメットライフドームに顔を出して応援したりもします。結果が気になっちゃいますからね。もうひとつはトレーナーがチームとなっていること。以前は職人気質といいますか、自分が100%やっていればいいという環境でもありました。でも今は、自分にないものをチームの人から聞く、共有する。それぞれが気づいたことを持ち寄って、それが選手にプラスになればいい。チームでやっていけるという楽しさがあります」

 現場で選手と共に一喜一憂したい。チームの一員として喜びを共有する幸せを求めてトレーナーという仕事を選んだ中村さん。今、トレーナー同士がチームとなって、そして、寮のスタッフ、監督、コーチなど、みなとともに選手のために何ができるかを考える。チームワーク、それが中村さんにとって大切なことだし、幸せなことなのだ。では、このチームの一員になれるのはどんな人だろうか。

「協調性とコミュニケーション。自分が自分が、ではダメですし、自分の領域のここだけでやれればいいでは成り立たちません。選手やほかの人の話を聞けて自分も出せる。難しいですけど……」

 その気持ちがあれば、きっとチームの一員として、選手と共に自分も成長できるのだろう。

◇現在、埼玉西武ライオンズではトレーナーの採用活動を行なっています。詳細はこちら。
https://hrmos.co/pages/seibulions/jobs/0000000001seibulions
◇過去のお仕事名鑑はパーソルの特設サイトからご覧いただけます。
https://www.persol-group.co.jp/special/pacificleague/index.html

文・岩瀬大二