東京大学・矢谷浩司氏が展望。手軽に“自分だけのハイライト”を作れる時代へ

2019-08-21 12:00 「パ・リーグ インサイト」望月遼太
東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻・准教授の矢谷浩司氏

東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻・准教授の矢谷浩司氏

ダイジェスト動画の視聴時間を、ユーザー側で自由に設定するために

 日ごろから野球の試合を視聴している方なら、5回裏終了時や試合終了後に流れるハイライトを目にすることはよくあるはずだ。得点シーンやファインプレー、注目選手の投球や打席といった、ファンの需要を満たす要素を盛り込み、3~5分程度にまとめるダイジェスト動画は、試合を見逃したファンにとっては非常にありがたいものだ。

 事実、「パーソル パ・リーグTV」におけるダイジェスト動画の視聴者数は、試合全体を放送するライブ中継よりも多くなっている。しかし、これまでダイジェスト映像の内容は配信メディアが見せたいものを中心に編集されており、動画時間も配信側が決めていた。通勤時間が10分の人は10分で、1駅の人は2分で……と、個々のユーザーに合わせた視聴時間を設定できれば、視聴者数のさらなる増加につながる可能性も高いのではないだろうか。

 そこで、「パーソル パ・リーグTV」を運営するパシフィックリーグマーケティング株式会社は、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻矢谷研究室(インタラクティブ・インテリジェント・システム・ラボ)とタッグを組み、ダイジェスト動画の時間を視聴者側が自由に設定できるシステムの共同研究を開始した。

 今回は、このプロジェクトを担当する、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻・准教授の矢谷浩司氏に対して行ったインタビューに基づき、今回の研究の目的や展望について紹介していきたい。

AIによって、人間が手間をかけるべきことにもっと時間を使えるように

 矢谷氏の専門は“ヒューマン・コンピュータ・インタラクション”。「人とコンピュータの関わり方」を研究する分野だ。「技術でできることを人に還元する、人が思っていることと、技術ができることの間のギャップをどうやって埋めるか」というテーマに取り組む矢谷氏は、自身の研究領域について次のように説明している。

「人がやらなくてもいいことをできる限りシステムや技術に任せて、本当に人がやっていて楽しいこと、価値があると自分が信じるもの、人が成長できるようなもののために時間を使えるような社会を実現する技術基盤の構築に貢献したいと思っています」

 矢谷氏は自身の性格について、「仕事を減らすための仕事を全力でやるタイプなので、無駄なことを見つけると、ついそれを最適化したがる」と分析する。AIの進歩によって人間の仕事が奪われることを懸念する声もあるが、矢谷氏はAIの発達によって空いた時間を有効に使うことで、人類の生活がより有意義なものになれば、という研究目的を語ってくれた。

 矢谷氏が見据える、時間の有効活用という方向性は、ハイライトの時間を自由に設定するという今回の研究内容、ならびに視聴者のニーズとも合致するものだ。

空いた時間で動画を見られれば、野球に対するハードルを下げることにもつながる

 もちろん、球場に行って生のプレーや応援を目にすることは野球観戦の醍醐味の一つ。矢谷氏も「私も、実際に何度か野球の試合を観戦したことがあります」と話し、「応援、マスコットやチアのダンスなど、いろいろと見るものがあって、球場ならではの楽しさがある」と語るが、球場以外では「どうしても実体験から離れてしまうところがある」ことが、長い時間を割くことに抵抗感を抱く人が少なくない理由の一つと考えているようだ。

「ちょっとした休み時間で野球を見られたり、野球が盛り上がった時にどんな選手がいるのかをパっと見られたりすれば、『じゃあ、ちょっと1回球場に行ってみよう』となるかもしれません。お金も時間もかかるし、電車に乗る必要もあるしと、いきなり球場に行くってなかなかヘビーなので。ですが、日本の野球界にはいろんな素晴らしい選手がいますし、スポーツとしての価値に加えて、エンターテイメントとしての価値も大いにあるでしょうから、それをもう少し気軽に味わってもらえるようなシステムを作るお手伝いができれば、我々も嬉しいです」