弁護士として、スポーツビジネスを変えていく。
パシフィックリーグマーケティング 事業開発本部シニアディレクター 兼 CEO補佐 稲垣弘則さん【パ・リーグお仕事名鑑 Vol.7】

2019-09-13 17:30 「パ・リーグ インサイト」編集部

 グラウンドの上で輝く選手やチームを支えているのはどんな人たちなのか。パ・リーグで働く全ての人を応援する、パシフィック・リーグオフィシャルスポンサーのパーソルグループと、パ・リーグインサイトがお届けする「パーソル パ・リーグTVお仕事名鑑」で、パ・リーグに関わるお仕事をされている方、そしてその仕事の魅力を紹介していきます。

大手法律事務所に所属しながら、PLMでインターン

 パ・リーグ6球団の共同出資により、2007年に設立されたパシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)。グラウンドではライバルとなるパ・リーグ6球団がビジネス面でパートナーシップを組み、「パーソル パ・リーグTV」や「パ・リーグ.com」、「パ・リーグインサイト」などのデジタルサービスを提供するほか、6球団共同のイベントやスポンサーセールス、マーケティングなどを行っている。

 そのPLMが現在積極的に進めているのがパ・リーグの新規事業開発だ。その一環としてNPB現役選手を除く国内外のスポーツ選手・OBOGのマネジメント業務を開始した。今回登場する稲垣弘則さんは日本を代表する大手法律事務所所属の弁護士。事務所の留学制度を利用してアメリカのロースクールでスポーツビジネスと法を学び、現地法律事務所でスポーツビジネスでの実務経験を経た後、PLMで新規事業開発のミッションを担っている。まずは弁護士としてスポーツとの関わり方というところから話を伺ってみよう。

「スポーツビジネスと弁護士の関係としては、アメリカでの留学と実務経験を経て、海外では弁護士がスポーツビジネスに幅広く関わっており、ビジネスの中心にいると感じました。弁護士が契約書や規約を作ったりするだけでなく、ビジネスそのものを行っているんです。球団・チームのオーナーや国際組織のトップが弁護士資格を持っています。サッカーの久保建英選手がプレーするスペインのマジョルカというチームのCEOも弁護士です。そして、選手のマネジメントやチームとの契約代理交渉を行ういわゆるエージェントも弁護士が多い。それはなぜかと言うと、スポーツは“権利ビジネス”。知的財産を取り扱うビジネスですから、本来はビジネスを進める上で法律の知識が不可欠なんです」

 それが次第に日本でも変わっていくと稲垣さんは考える。日本のスポーツビジネスが拡大していく中で、今後は弁護士がスポーツビジネスの中軸を担う役割として必要とされるだろうということを、アメリカでの経験から感じたという。しかし、所属している法律事務所では、スポーツビジネスそのものを行うことは難しい。

「メジャーリーガーのクリスチャン・イエリッチ選手が日米野球で来日することになったときに、イエリッチ選手のエージェントから日本側のマネジメントをサポートしてほしいと依頼があったのですが、うちの法律事務所だけでは十分なサポートはできないと感じて。でも、事務所でできないこともPLMだったらできるかもしれないと思いました。当時、PLMでは選手のマネジメント業務を行ってなかったのですが、ちょうどCEOの根岸(友喜)がこの分野をやろうとしていたタイミングでした」

 幸運なタイミング。ここから、いろいろな枠組みでマネジメント業務を開拓していく。早速、ビッグネームがその枠組みにのってくれた。

「イエリッチ選手のスポンサーシップをPLMで取り扱うことになり、彼の日本での知名度を上げるためのサポートとして、日本のTV番組への出演をキャスティングしました。また、アメリカでの研修先の弁護士がNBAヒューストン・ロケッツのジェームズ・ハーデン選手と新しい会社を作ることになって、その流れで、ハーデン選手のスポンサーシップもPLMで」

 野球、バスケットボールのビッグネームとのコネクション。これはインパクトが大きい。PLMにとって新しい商材の獲得である。稲垣さんは、これをきっかけに現在の役職に就任し、NPB現役選手を除く、国内外スポーツ選手・OBOGマネジメント業務や、リーグスポンサーの営業など、新規ビジネスの開拓を担うこととなる。

「最近ではスポーツ×IT・テクノロジーがトレンドになっています。『Sports Tech Tokyo』という、世界のスタートアップ企業と日本のスポーツビジネスをマッチングさせて新規ビジネスを創出するアクセラレーションプログラムを通じ、日本の野球ビジネスに興味を持った海外のスタートアップ企業とパ・リーグとを結びつけて、今後、パ・リーグの新しいコンテンツやサービスを作っていくような仕事にも携わっています」

 そもそもどのようなきっかけでPLMと契約することになったのだろうか。

「アメリカでのスポーツにおける弁護士の役割を肌で感じ、スポーツビジネスの実務を経験しなければと感覚的に思っていました。アメリカでいくつか出向先の候補があったのですが、タイミングが合わず1年前にビザが切れてしまって。そこでPLMを紹介していただいて、インターンとして働くことになりました。PLMでは弁護士として法務の仕事をするのではなく、リーグスポンサーの営業など、パ・リーグのビジネスの実務に携わることを希望しました」

 もともとは2カ月のインターンの予定だった稲垣さん。PLMとしては新しいビジネスの開拓という成果が、稲垣さんとしてはこの分野の将来性の実感がそれぞれ得られたことで、その期間は延長を重ね、今後1年、引き続き法務以外のビジネスサイドで現在のミッションを進めていくこととなった。

アメリカでは、スポーツビジネスに携わる弁護士たちとの交流も。

アメリカでは、スポーツビジネスに携わる弁護士たちとの交流も。

人に寄り添う。それが仕事

 そもそも、なぜ弁護士としてスポーツビジネス分野でやっていこうと考えたのか。きっかけは高校時代までさかのぼる。

「元からスポーツ分野をやりたかったんです。僕は高校までサッカーをやっていまして、高校生だった頃にサッカー選手の海外移籍のサポートをしていた方が弁護士だったことを知りました。日本人でやってる人は少ないけれどそういう仕事もあるんだと思って。元々スポーツが好きなのでやりがいを感じています」

 稲垣さんはもともと、スポーツを通じて「人に寄り添う仕事」をしたかったと言う。

「これまでのスポーツ業界では海外と日本をつなぐ人が少なく、海外に挑戦したい選手が満足なサポートを受けられず志半ばで挑戦を諦める事例も存在すると聞いています。時間はかかるかもしれませんが、そういう状況を変えていきたいとも思っています。それが選手にとってもチームや企業のためにもなると思うので」

 選手が満足なサポートを受けられずその夢を諦めることになる。弁護士として目指した理由が「人に寄り添う」という稲垣さんにとっては許せないことだった。華やかなスポーツビジネスの裏側を正義感で支える人がいるのは心強い。

「とはいえ所属している法律事務所もスポーツをメインで扱っていなかったですし、大手ですのでクライアントのほとんどは個人ではなく企業。配属されたのはM&Aなどの企業法務を取り扱うチームでした。ただ、企業法務の経験を積んで思ったのは、企業がクライアントといっても仕事で毎日接するのは人ですし、企業のために頑張ることはそこに所属する全ての人のためになる。“企業に寄り添う”仕事をすることで、結果的にはたくさんの“人に寄り添う”ことになる。だから企業法務にもやりがいを感じています。ただ、やはりスポーツビジネスに対する想いがあり、『挑戦しよう』と」

 PLMは稲垣さんにとってその想いを実現できる場所。

「私が行動し始めたのが、ちょうど政府からスポーツ市場規模を拡大する方針が示されて、大手企業がスポーツビジネスへの参入を開始したタイミングと重なりました。現在、ビジネスのプロや企業を支える専門家の方々がスポーツビジネスに続々と参入していて、日本でもスポーツがビジネスとして認識され始めています。ですので、今後、企業法務を専門とする弁護士がスポーツに貢献できる部分は大きいと考えています」

 稲垣さんは今後のスポーツ界のために、弁護士に限らず法律の知識経験を持つ人がより増えてくれることを望んでいる。ただ、稲垣さんにとってスポーツビジネスは完全に新しいことへの挑戦だったはず。どのようなマインドを持っていたのだろうか。

「新しい分野をやるにはいろんな人から情報収集をするために行動する必要があるので、一定程度、自分への投資も必要だと思っていました。会って話を聞きたい人には、その人がどこにいてもどうやってでも会いに行くようにしていました。PLMに入ってからは、個人的にはビジネスの実務は素人なので、ゼロから学ぶ姿勢と気持ちは大切にしています。まだ何も成し遂げてないですが、僕はPLMで学んだことをスポーツビジネスの将来につなげていきたいです」

◇過去のお仕事名鑑はパーソルの特設サイトからご覧いただけます。
https://www.persol-group.co.jp/special/pacificleague/index.html

文・岩瀬大二