【背番号「9」の背中】絶対的キャプテン・鈴木大地が生まれた瞬間を知っているか

2019-09-20 08:00 「パ・リーグ インサイト」マリーンズ球団広報 梶原紀章

 背番号「9」福浦和也選手が9月23日のセレモニーをもって引退する。習志野高校から地元の球団・千葉ロッテマリーンズに入団し、一筋26年。今季は球界最年長も経験した。多くの同志、はたまた後輩を見送ってきた男が、ついにその花道を用意される立場となる。“その時”を迎えたとき、監督は、選手は、そして福浦選手は…… 千葉ロッテマリーンズの名物広報・梶原紀章さんが、6回にわたって綴る。

◇バックナンバー
vol.1 愛弟子・大松尚逸。その傷だらけの選手人生からの幕引き
vol.2「カズヤ」の名を長男に付けた選手・ベニーのこと

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 マリーンズで絶対的なキャプテンシーを発揮する鈴木大地内野手にとって、その原点となっているできごとがある。それはキャプテンに指名された14年のことだ。

 遠征先の宿舎ホテルでのこと。その日のナイトゲームに敗れてチームは6連敗を喫していた。鈴木は一人、ホテル内に設置されているビデオルームに向かった。スコアラーが収集した映像が流れており選手たちはいつでも映像をチェックすることができる部屋だ。試合に敗れ、憔悴しきった表情で部屋に入ると先客がいた。福浦和也内野手だった。最初は特に会話もなく時が流れた。二人はそれぞれ自分たちの打席映像を見ていた。ふとした瞬間だった。大ベテランは鈴木に問いかけた。

「なあ、大地。きょうの試合で一つ気になることがあった。ピッチャーがピンチの時、内野手は誰もマウンドに行って投手に声をかけなかったよな」

 この試合、西武ドーム(現メットライフ)にてライオンズに5対10で敗れていた。先発の唐川侑己が打たれた。3点リードの2回。5本の長短打を浴びせられ逆転を許した。その場面をベンチで見守っていた福浦はピンチで内野陣が誰も投手の唐川に声をかけることがなかった点に疑問を呈した。映像を見入っていた鈴木だったが、その一言が胸に突き刺さった。何度も自問自答した。

「福浦さんの一言でハッとさせられました。もしかしたら自分が間を置いて、ポンと肩を叩くだけで、リズムや流れが変わったかもしれない。声をかけるだけで少し気持ちが楽になったかもしれない。小さいことかもしれないけど、キャプテンとしてやれることをしていなかった。それが恥ずかしかった。こんなに勝ちたい、勝ちたいと気持ちでは思っているくせに、やれることをせずにそう願っていただけの自分が情けなかった」

 問いかけた疑問に若きキャプテンがなにかを感じたと察した福浦は言葉を続けた。今度は映像を見るのを止め、鈴木に鋭い眼光を向け、強く願うように話し出した。

「オレは試合に出たり出なかったり。オマエは今、全試合に出ている。だからオマエが先陣を切ってやって欲しい。グラウンドでは年齢も関係ないし、遠慮をする必要もない。そうすることでなにかが変わる可能性はある。ならば、した方がいい。悔いのないようにできることはすべてしたほうがいい。だいぶ昔のことだけどオレも先輩にそう教わった」

 それからの鈴木は動いた。翌日には練習前にグラウンドで選手だけのミーティングを開催した。福浦らベテラン選手たちにも意見を聞いた。若きキャプテンである自分が鼓舞するだけではなく、ベテランの含蓄のある発言によって、選手たちの心を動かそうと考えた。勝ちに対する思いをもう一度、共有した。そして、守っている際はことあるごとに投手に声をかけるようになった。連打を食らい、気持ちの整理がつかない状態になっていると思った時は一呼吸を置くためにマウンドに歩み寄った。時には声をかけ、時にはポンとお尻を叩くだけの時もある。叱咤したり、激励したり。ただ見守るのではなく動くことで事態をなんとか好転させようと努力し続けた。

 月日は流れた。今、鈴木にキャプテンという肩書きはない。いや、もう肩書きはいらないのだ。グラウンドで誰もが認めるキャプテンシーを発揮している。後輩が多くなったチームにおいてマウンドの投手を叱咤激励し続ける姿は不変だ。チーム状態が悪い時は率先して選手たちに呼びかけて、ミーティングを開きチームをまとめ上げている。その原点には大ベテラン 福浦の存在は欠かせない。

「最高の形で福浦さんを送り出したいです」。鈴木はことあるごとにそう口にした。背番号「9」の背中から様々なことを学んだ8年間だった。時には直接、聞いた。教えてもらった。マリーンズ愛の詰まった言葉の数々。今度は鈴木が後輩たちへと受け継いでいくことになる。

文・千葉ロッテマリーンズ球団広報 梶原紀章