【背番号「9」の背中】親友・松井稼頭央との誰も知らないセレモニー

2019-09-22 09:46 「パ・リーグ インサイト」マリーンズ球団広報 梶原紀章

背番号「9」福浦和也選手が9月23日のセレモニーをもって引退する。習志野高校から地元の球団・千葉ロッテマリーンズに入団し、一筋26年。今季は球界最年長も経験した。多くの同志、はたまた後輩を見送ってきた男が、ついにその花道を用意される立場となる。“その時”を迎えたとき、監督は、選手は、そして福浦選手は…… 千葉ロッテマリーンズの名物広報・梶原紀章さんが、6回にわたって綴る。

◇バックナンバー
vol.1 愛弟子・大松尚逸。その傷だらけの選手人生からの幕引き
vol.2「カズヤ」の名を長男に付けた選手・ベニーのこと
vol.3 絶対的キャプテン・鈴木大地が生まれた瞬間を知っているか
vol.4 岡田幸文が教わった“準備”の大切さ。福浦和也が迷える後輩に送ったアドバイスとは?

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「福ちゃんに話さないといけないことがあるんだ」

 昨年9月中旬のとある日のことだ。福浦和也内野手は同じ年で仲のいいライオンズの松井稼頭央現二軍監督(当時外野手)から食事に誘われた。久々の食事の場。親友からは席に着くや今季限りで引退する話を切り出された。

「いきなり深刻な表情で言われたからね。覚悟はしたよ。この年までお互い励まし合いながらやってきた。デビューしたのは稼頭央くんが先で3拍子揃った選手として活躍する前から有名だった。オレとは全然、格の違う選手。ずっと、なんとか追いつけるようにとその背中を追いかけてきた。ベテランと呼ばれる年になって、同じ年の選手たちがとんどん辞めていく中で刺激を受け合いながらやってきた。それだけにショックだったね。寂しい想いだった。心にポッカリと穴が空いたような気分だった」

 この時点で福浦は通算2000本安打の偉業まであと4本と迫っていた。9月15日からはZOZOマリンスタジアムでの本拠地8連戦。8連戦の最後を締めるのは松井の所属するライオンズ3連戦だった。松井は出場登録を抹消されていたものの、チームに帯同をし続けていた。だから心の中で密かに照準を合わせた。

「ライオンズ戦で、稼頭央くんの前で2000本安打を打ちたい。誰にも言っていなかったけど、自分の中では、そう決めていた。引退する稼頭央くんの目の前で打ちたいとね」

 5試合を終えて残り2安打としライオンズ3連戦に突入した。8連戦7戦目の9月21日に1安打を放ち、9月22日のライオンズ戦を迎える。これが友の目の前で偉業を達成するラストチャンス。そしてチームはここから遠征に突入するため地元で記録を決めるためにも、残り1試合で絶対にヒットを記録しないといけなかった。

 しかし、安打はなかなか出ない。中飛、遊飛、四球で試合は終盤の8回まで進んだ。先頭打者として巡ってきた4打席目。この日の最後の打席になるかもしれない場面でライオンズはマウンドに4番手として左の小川龍也投手を送りだした。

 外角へと逃げていくスライダー。狙ったわけではなく必死に食らいついて、バットを合わせた。打球は低い弾道を描き、芝の上で跳ねた。右翼手が打球処理まで時間を要するのを確認すると、躊躇なく二塁を陥れた。最後は足から滑り込み、偉業は達成された。ベース上で両手を掲げ、大声援に応えた。すると三塁側から大きな花束を手に嬉しそうに駆け寄ってくる友の顔があった。サプライズ演出だった。

「ベンチ入りしていなかったのでどこかで見てくれてはいると思っていたけど、まさか花束を持ってグラウンドまで駆け付けてくれるとは想像していなかった。ビックリした。でも本当に嬉しかった」
 
 抱き合った。18歳から42歳のこの日まで一緒にプロ野球で切磋琢磨しながら戦ってきた。2人にしかわからない想いがあった。

「おめでとう」
「ありがとう」

 交わしたのは他愛もない言葉だが、その中には色々な思いが詰め込まれていた。わずかな時間が無限に感じられた。

「ライオンズ戦で稼頭央くんの前で打ちたいとは思ってはいたけど、本当にそうなるとはね。8連戦の最後で、もしかしたらこの日の最後の打席になるかもしれないという場面で達成できたのはなんか信じられないよね。稼頭央くんの顔を見た時に、色々な思い出が脳裏をよぎった。彼がいたから今の自分はいる」
 
 福浦が2000本安打を放った4日後の9月26日に松井は正式に引退を発表し、翌27日に引退会見が開かれライオンズの二軍監督に就任した。そして一年後、福浦もまたバットを置く日が近づいている。西武第二球場でイースタン・リーグのライオンズ対マリーンズ3連戦が組まれた9月中旬。2人は久しぶりに食事を共にした。

「あしたは打席に立つよ。稼頭央くんの前で最後に打席に立つよ」

 今シーズン、二軍でも打席に立つ機会は少なかった福浦だが松井二軍監督率いるライオンズとの最終戦では志願の出場を願い出ていた。残念ながら最終戦は雨天中止。この時期の二軍戦は振替試合が行われないため幻の打席となってしまった。
 
「しまったなあ。一日早く打席に入ればよかった。天気予報だと回復傾向だったのだけどなあ」

 雨天中止の連絡に福浦はそう言って悔やんだ。気持ちを切り替えライオンズの室内練習場で汗を流していた時だった。松井二軍監督が近づいてきた。手には大きな花束があった。本当は試合後に渡す予定だったサプライズの花束だった。

「福ちゃんお疲れさん」
「稼頭央くんありがとう」

 パ・リーグを引っ張ってきた2人は最高の笑みを見せ、握手を交わした。9月23日の北海道日本ハム戦(ZOZOマリンスタジアム)。一つの時代が幕を閉じる。そしてまた新しい時代が始まる。松井二軍監督が、そして福浦二軍打撃コーチが熱意を込めて新しい時代のスターを育てる。

千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章