データを生きた情報に変え、チームを強くする。
北海道日本ハムファイターズ ベースボールオペレーション部 ベースボールオペレーショングループ アナリスト 野本尭希さん【パ・リーグお仕事名鑑 Vol.9】

2019-10-04 12:00 「パ・リーグ インサイト」編集部

 グラウンドの上で輝く選手やチームを支えているのはどんな人たちなのか。パ・リーグで働く全ての人を応援する、パシフィック・リーグオフィシャルスポンサーのパーソルグループと、パ・リーグインサイトがお届けする「パーソル パ・リーグTVお仕事名鑑」で、パ・リーグに関わるお仕事をされている方、そしてその仕事の魅力を紹介していきます。

数字が介在するとコミュケーションは円滑になる

 北海道日本ハムファイターズのアナリストとして鎌ヶ谷スタジアム(千葉県・鎌ヶ谷市)を拠点として働く野本尭希さん。採用のきっかけは「トラックマン」導入にあたってオペレーションを担当する人材が求められたこと。ここ数年、プロ野球のトピックスとして話題に上がることも多いトラックマンだが、これを生かした仕事というのは実際どういうものなのだろうか。

「トラックマンは、ピッチャーが投げるボールの回転数や回転の向き、バッターの打球速度などが解析できるものですが、この導入によって、これまでスコアラーの方々が扱っていたデータに比べて取れるデータ量が大幅に増加しました。その膨大なデータを分析するために、PCや統計のスキルを持った人材が必要になりました」

 新しい仕事。だが、野本さんは、スコアラー的な分析とアナリストに共通のスキルがあると言う。得たデータを有効に使い強化に結びつけるための「コミュニケーション力」だ。

「直球のキレがあるとか、スライダーが曲がる曲がらないっていうのは、今まで何となく見た目で評価していて明確に答えられない部分がありました。トラックマンデータを用いることでスライダーの曲がりを客観的に把握できるようになり、今まで選手やコーチの間で感覚値のみで話し合っていたものに、客観的データも加えてコミュニケーションがとれるようになりました」

 感覚は大切なものだが、そこに数字を介在させてコミュニケーションとることで理解も早く、納得もしやすい。数値で見ることによって新たな気づきも生まれる。

「例えば試合後、今日は前回よりスライダーが曲がっていた、いなかったという感覚値は選手やコーチの中にはあります。そこをアナリストとしてデータと感覚がマッチングしているのかを明確にすることができます」

 ただ、あくまでもこれは素材であって、万能ではないと野本さんは考える。

「数値がわかったら上手くなるかっていったらそうじゃない。例えばある投手の回転数は平均でこのぐらい。それを今、もっと上げるべきなのか、そもそもそれが悪いことなのか。数値を知ってしまうことで、今まで自信を持って投げていたストレートが投げられなくなることだってあるかもしれません。そこは最大限の考慮をしなくてはいけない」

 その投手のデータを改善するための練習方法なりフォームなりがわからない中でやみくもに練習に取り組んでも、ケガにつながったり、今まで培った技術を失ってしまうことだってあるかもしれない。 

「トラックマンデータの一部の数値に着目して、その値を高い順番に並べたとしても、一軍の勝利数と比例するわけではありません。ですからデータの扱い方は非常に難しい。難しいと思ってデータと向き合わなければいけないのかなと思っています。僕は野球好きで研究好きですから何でも分かりたいし、追求したいし、それが現場に役立ってほしいなっていう思いは非常に強い。だからこそ、果たして本当にそうなのか?という疑問を常に持っておくべきだと思います」

 ファームには、自身の経験に裏打ちされた感覚値を持つ調整中のベテランがいて、これから一軍で頑張っていこうという10代の新人もいる。データの捉え方も違うし、求められる提示の仕方も違うだろう。中長期の底上げに必要なデータの生かし方もある。

「これから鍛えていく若手において必要な情報と、既に自分の型を身に付けている人が欲する情報は違う。データ分析している僕がいて、プロ野球の世界で自己を上達させるプロセスを経験してきたコーチがいて、今まさに悩んでいる選手がいて、この3人が揃って、話し合える場というか、適切なコミュニケーションができることが大切だと思います」

 野本さんは探究心のあまり、つい熱がこもってしまうこともあるという。その時、選手と一番近いところで接しているコーチたちが、適切にデータを選手へのアドバイスにつなげてくれる。この信頼感が良いコミュニケーションとなり、数値を生きたものにしてくれるのだ。

歩んできた道が違う。だからおもしろい

 現在ファイターズには野本さんを含め4人のアナリストが活動している。3人は北海道、野本さんは千葉県鎌ケ谷で活動する。

「それぞれ色があっておもしろいです。国立大学出身の元プロ野球選手に、アメリカの大学の野球部への留学経験のある元広告マン。そしてプレー経験がないシステムエンジニア。皆、野球界の常識にとらわれていない。それがおもしろい。指導現場においては、最終的な意思決定はコーチや選手がするわけで、僕らが出す情報=答えではありません。いろいろな観点からの情報があるほうがいい」

 いろいろな観点。野本さんは大学まで野球部。大学の途中からコーチとして野球に関わっていた。ただ、その先に野球の仕事をするというヴィジョンは持ちにくかった。チーム強化や選手育成に関わる仕事はプロ野球関係者以外には狭き門のように感じていた。そこで、あるパリーグのチームの事業部でのインターンに参加したものの、ビジネスマンとしてスキルを磨き、経験を積んでからプロ野球界に入ってきたほうが良いというアドバイスをもらい、最終的には野球以外での就職を選んだ。その就職先は日本を代表する大手証券会社だった。

「たまたま配属になったのが、圧倒されるようなスーパー営業マンばかりの支店。その方々が教育係として色々話してくださいましたが、営業へのこだわり方、成績、そして何よりもこの業界とこの仕事を好きだという気持ちに圧倒されて……」

 そのスーパーな諸先輩方に肩を並べるにはどうするのか。証券会社という土俵ではなく、自分が本当に好きなものに取り組むしかない。そこで一旦、母校筑波大学の大学院に進むという道を選んだ。研究テーマは野球におけるコーチング論。この段階ではプロ野球で働くという明確な目標はなかったが、そこで出会いがあった。

「在学中にファイターズの方々にお会いする機会がありました。スカウティングと育成によるチーム強化で注目され始めた時期で、今までの野球界の当たり前とは違った取り組みをして強くなってきていることに惹かれました。ですからトラックマンへの興味とか、プロ野球界への興味というよりも、ファイターズというチームの取り組みに興味を持ちました。実際入ってみると、ファイターズは“仕事は自分で作る”という、自分で考えてやることが尊重されていて、すごく自分の性に合っていました」

 今までやってきたことを踏襲するのではなく、自分で作っていく。そもそもトラックマンは新しい領域。今、野本さんが取り組んでいることの一歩一歩の積み重ねが、続いていく人の道になっていく。

「トラックマン分析の最先端はメジャーリーグ。だからこそ、そこから学ぶことが当然多くなるのですが、学んだことを最大限に生かしつつも、自分の色じゃないですけど、トラックマンを含めた様々なデータを活用して、選手育成に貢献できる自分なりのやり方を作っていきたいという思いは強いです」

 プロ野球には次々と新しい領域が生まれ、そのことによって今までにはないステップから球団で働く可能性も拓けているのだ。


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文・岩瀬大二