データで検証 「負担の大きいポジションを守ると打撃成績が低下する」は本当か?

2020-03-03 11:01 「Full-Count」編集部
2019年まで阪神に在籍した鳥谷敬※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)

2019年まで阪神に在籍した鳥谷敬※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)

遊撃からコンバートされた選手はどのような成績を残した?

 捕手から一塁にコンバートされると打撃に集中できるため成績も向上する――。こういった言説を聞いたことはないでしょうか。一般に、遊撃手や捕手は高い守備力を要求されます。こうしたポジションを守ることは負担が大きく、打者はこの負担から解放されることで打撃成績にはプラスに作用するという考え方です。しかし実際にこういった説に対し、根拠が示されたことはありません。今回はデータからこの説について検証をしてみたいと思います。

 ただ検証をするにも様々な手法が考えられます。ここではまずある年を境にコンバートされた選手が、翌シーズンにどのような成績を残しているかを確認していきます。イラストはある年に遊撃を守った選手がコンバートされ、翌シーズンは別のポジションで多くの打席に立ったパターンをピックアップしたものです。コンバート前後でそれぞれのポジションで50打席以上に立った打者を対象としました。

遊撃手のコンバートによる打撃成績の低下※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

遊撃手のコンバートによる打撃成績の低下※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

 例えば、2016年の鳥谷敬(阪神)は遊撃手として451打席に立ち、OPS(※1)で.683を記録。翌年、三塁手として564打席に立ち、OPS.770を残しました。これだけを見れば、遊撃から三塁へのコンバートにより守備負担から解放され、成績が向上したように見えます。

 しかし、ピックアップした8名が全員そうした傾向を示しているわけではありません。松井稼頭央(楽天)は2014年のオフに遊撃から右翼にコンバート。一見負担が軽くなるコンバートに思えますが、14年から15年でOPSは.768から.690まで低下しています。

 結果としては、OPSが上昇した打者と低下した打者は半々です。しかし、コンバート前後でそれぞれ50打席以上の記録のある打者はわずか8人と、サンプル不足の感は否めません。また遊撃からほかのポジションへコンバートされるのは、衰えつつあるベテラン選手に多いという事情もあります。こうした選手は打撃の衰えも始まっているため、成績の変化がコンバートによるものか言い切れません。ほかの手法がないか試してみたいところです。

遊撃と遊撃以外のポジションでの打撃成績は?

 さきほどのサンプル不足という問題を解消するため、遊撃とそれ以外のポジションを守った選手の打撃成績を、あるシーズンに限定せず、また特定のポジションに限定せず比較してみたいと思います。ここでは2014~19年の間に遊撃手と遊撃手以外のポジションでの打席の合計がそれぞれ50打席以上ある打者48選手を対象に、ポジション間でのOPSを比較しました。

遊撃手とそれ以外のポジション間でのOPS比較※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

遊撃手とそれ以外のポジション間でのOPS比較※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

 イラスト内のグラフは、右に行くほど遊撃を守っているときのOPSが高いことを、上に行くほど別のポジションでのOPSが高いことを表します。図中の破線よりもプロットが上側にあれば、遊撃手のときよりも遊撃以外を守っているときの成績が良いということです。

 プロットの位置に注目すると、破線の上側ばかりに集まることはなく、破線をまたいで上下に散らばっています。つまり、この条件の選手については遊撃を守っていることで一貫して打撃成績が下がってはいなかったようです。例を挙げると、鈴木大地は遊撃でOPS.716、それ以外でOPS.814と遊撃以外のポジションで好結果、北條史也は遊撃でOPS.736、それ以外で.615と低下しており、様々です。

 とはいえ50打席では打撃成績が安定しないため参考にならないという指摘もあるかと思います。そこで両方のポジションで300打席以上ある選手でも絞ってみました。それがグラフ内に赤く示したものです。やはりプロットは変わらず上下に散らばっています。遊撃を守る負担が打撃成績にまったく影響を与えないとは言い切れませんが、少なくとも下がると断定できるような結果ではありません。

しゃがむ・立つなどの負担が大きい捕手ではどうか

 遊撃手と同じく捕手についても、それ以外のポジションを守った場合と打撃成績を比較してみたいと思います。捕手はほかのポジションに比べ、しゃがむ、立つといった動作が多く、遊撃以上に負担が大きいとも考えられます。

 しかし特殊なポジションゆえか、捕手がそれ以外のポジションを守るケースは少なく、遊撃手以上にサンプルを確保できませんでした。参考の域を出ませんが図示してみます。こちらも2014~19年で50打席以上に立った捕手が対象です。

捕手とそれ以外のポジションでのOPS比較※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

捕手とそれ以外のポジションでのOPS比較※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

 右に行くほど捕手を守っているときのOPSが高いことを、上に行くほど別ポジションでのOPSが高いことを表します。こちらについても、プロットは破線の上下に散らばっており、捕手が負担の軽いポジションを守ることで優れた打撃成績を残した様子はありません。代表的な例を挙げると、森友哉(埼玉西武)は捕手でOPS.907、それ以外で.834、大城卓三(巨人)も捕手で.736、それ以外で.691と、負担が大きいはずの捕手でよりよい結果を残しています。

 にもかかわらずこのような説が広く知れ渡っているのはなぜでしょうか。これについてはそもそも十分な出場機会を得てコンバートした打者の数自体が少ないため、特定の選手の結果の印象が強くなり、守備の負担がなくなれば打撃にもプラスに作用すると考えられるようになったのかもしれません。

 また、この分析手法は数あるうちの一つに過ぎません。常時の出場が難しい40歳を超えるようなベテラン選手のデータばかりを集めれば、負担軽減が打撃成績に好影響を与えるかもしれませんし、もともと持っている能力の高い打者ほど負担の影響を受けやすいということもあるかもしれません。ほかの要因が絡めば打撃成績に影響を与える可能性も0ではないということです。

 しかし、仮にそうした効果が認められたとしても、それは極めて限定的になるのではないでしょうか。負担の大きい守備位置から解放されれば、打撃成績がアップすると見積もるのは避けたほうが良さそうです。

(※1)OPS(On-base plus slugging)は出塁率と長打率を足した値で打者の総合的な攻撃力を示す。

(DELTA)

DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。