【球界と共に1】想定すべきは「ワーストケース」 危機に立つ球団の首脳ができること

2020-04-27 19:38 「Full-Count」編集部
楽天でオーナー兼球団社長を務めた島田亨さん※写真提供:Full-Count(写真提供:株式会社 USEN-NEXT  HOLDINGS)

楽天でオーナー兼球団社長を務めた島田亨さん※写真提供:Full-Count(写真提供:株式会社 USEN-NEXT HOLDINGS)

元楽天オーナー兼球団社長・島田亨さんインタビュー(前編)、東日本大震災の教訓は生かされているか

 新型コロナウイルスの感染拡大で、当初3月20日に予定されていたプロ野球の公式戦開幕が延期となっている。苦しいのはファンだけでなく、球団側も経営に大きなダメージを受ける。Full-Countでは過去に球団首脳としてチーム運営に携わった経営陣に球団が考えるべきこと、ファンや周囲の人は何ができるかを問う連載【球界と共に】で一緒に考えていきたい。第1回は元楽天オーナー兼球団社長・島田亨さんに聞いた。

 プロ野球の開幕が延期されたのは、東日本大震災が起こった2011年以来のことである。島田亨さん(現USEN-NEXT HOLDINGS取締役副社長COO)は11年当時、東北楽天ゴールデンイーグルスのオーナー兼球団社長の重責を担っていた。

「確かに、11年以来の開幕延期というのはその通りですが、今は判断基準というか、判断するための状況が全く違うと思います」と話す。

「東日本大震災は、局所的なもので、全国に大きな影響は及ぼしましたが、物理的に何かを制限しなければならないことは東日本の一部に偏っていました。こういうプロセスでやっていけば、球場の手当ても、移動の手当てもできて、あとは(原子力発電所の事故による)放射能の地域的な問題さえクリアすれば、開幕はいつくらいに、こういう形でできるんじゃないかと、ある程度シミュレーションができたんです」と振り返る。

 一方で「今回は残念ながら、いつ終息のメドが付くのか全くわからない。コロナウイルスの詳しい実態がわからず、ワクチンも治療薬もできていない現状では、いつ(シーズンを)始めるかを議論すること自体、あまり意味がないかなと思います。いまは、それを判断できなくてもしかたがない」と、球界を取り巻く環境の困難さを思いやるのだ。

 その中でも、いま各球団首脳がやれること、考えるべきことは何か。島田さんの11年当時の経験の中に、教訓が含まれているのではないか。

「震災直後のわれわれもそうでしたが、こういうことが起こった時にはこう対処しようと、あらかじめ様々なケースを想定しながら、球場の運営を含めて準備すべきだろうと思います」と口を開いた島田さん。当時楽天が講じた対策の数々を語り始めた。

震災後に数百万円かけて本拠地Kスタ宮城に地震感知器を設置、審判と連動するシステムを構築

「11年には3月11日以降も、たびたび大きな余震がありました。気象庁が地震波をキャッチし、強い揺れが始まる前に、テレビ・ラジオ・携帯電話などを通じて緊急地震速報を発表するしくみになっていましたが、これにはタイムラグがあり、そうこうしているうちに揺れが始まってしまって予防にならない可能性があった」

 そこで、「気象庁が基地局で使っているような地震感知器を、数百万円かけて本拠地Kスタ宮城(現:楽天生命パーク宮城)に設置しました」と明かす。「試合開始後は感知器のある部屋に必ず1人張り付け、地震波を感知したら、審判の腕に巻かれたバイブレーターを作動させ、試合を止めるかどうかの判断をしてもらうシステムを作り上げました」と説明する。規定上、いったんプレイボールがかかったら、主催球団であっても勝手に試合を止めることはできず、その権限を持っているのは審判だけだからだ。

 それだけではない。「照明塔に関しても、震度いくつ以上だと倒れる可能性あり、その場合はどちらの方向に倒れるのかを計算し、フィールド内のどこが安全ゾーンなのかを特定しました。そして、どの動線で避難すると何分何十秒かかるか、実証実験と予行演習を繰り返しました。地震が起こった時にどう対応するのか、準備するだけでなく常日頃から訓練しておくことが重要でした」

 幸い、球場の地震感知器が作動して試合が止まることも、観客が避難を余儀なくされることもなかったが、いま改めて、各球団に万全の危機管理が求められている。

 島田さんは「球団によって温度差があり、対応も様々。感染予防については、マスコミの報道を見ながら後手後手になっているのが現状だろうと思います。いまは、仮に公式戦を始めるとして、たとえば選手や観客に感染者が判明した場合、拡散を防ぐために、試合を止めるとか球場を閉鎖するとか、こういう事が起こったらこう対処すると、きちんと準備すべき時期ではないかと思います」と提言する。

 さらに島田さんは、今後NPB(日本野球機構)と各球団が直面するであろう課題についても語ってくれた。強調したのは、「経営者は“ワースト・シナリオ”(最悪のケース)を想定しておかなければならない」ということだった。

 次回は、今後NPBと各球団が直面する課題と“ワースト・シナリオ”を紹介する。

島田亨(しまだ・とおる) 1965年3月3日、東京都生まれ。
2004年12月に東北楽天ゴールデンイーグルスの代表取締役社長に就任。08年1月からオーナーを兼務。12年7月、海外赴任に伴い退任。14年に楽天株式会社代表取締役副社長に就任。16年3月に同社を退社。17年3月、U-NEXT(現USEN-NEXT HOLDINGS)取締役副社長COO就任。トランスコスモス社外取締役ほか、長年エンジェル投資家としても活動、複数企業の経営をサポートしている。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)