メジャーリーグへの就職活動

2016-03-05 00:00 「パ・リーグ インサイト」新川諒

世間では就職活動シーズンが始まり、将来へ向けてそれぞれが動き始めた。

パ・リーグ球団の中でも早速、東北楽天ゴールデンイーグルスは2017年新卒採用を開始した。今やプロ野球も学生が就職を目指す場所となり、野球少年たちが選手として夢を抱くだけの場所ではなくなった。

まだ2017年度の募集は開始していないものの、北海道日本ハムファイターズや福岡ソフトバンクホークスも例年新卒採用を積極的に取り入れ、少しずつ野球業界への扉は開かれている。しかし、依然狭き門であることには変わらない。

メジャーリーグでの仕事も「ドリーム・ジョブ」と言われるほど、皆が憧れる場所だ。選手と同じくメジャーリーグでいきなり「プレー」できるのは一握り。ほとんどはマイナーリーグや独立リーグのインターンや仕事を経て、「メジャー昇格」を目指す。

当時学生だった頃、私もメジャーリーグ球団で2年インターンをしたが、帰国するたびに日本の方から「医療系を目指しているのか?」と問われるほど、まだインターン制度は日本で浸透していなかった。最近ではスポーツ界でも馴染みのある言葉になったが、今でも2、3日のインターン体験などという求人を打ち出す企業も見かける。

アメリカではインターンを勝ち取るのは就職と同じぐらい競争率が高く、それは数日や数週間で終わるものではなく、長期的なものが多い。学生は実際に現場での経験を得ることができ、球団・企業側はその中から正式な社員とする人材を選ぶことができる「長期オーディション」の場となる。

すでに申し込み期間は終わってしまったが、北海道日本ハムはファームの施設を置く鎌ヶ谷でインターンスタッフを募集していた。そしてインターンという名ではないが、オリックス・バファローズも3月3日からイベントクルー募集を開始した。埼玉西武ライオンズもエントリーフォームをホームページ上から送信できるページがあり、現在はスタジアムでのバイトも募集をしている。今や日本でも野球界を目指す者にはいろんな可能性が広がってきているのである。

メジャーで仕事を得るためには?

一方アメリカでは日本と同じようにチームの公式サイトからインターンに応募もできるが、その競争率は非常に高い。そのため大学入学時から多くの学生がメジャーリーグで仕事することを目指して、さまざまな経験を積み、自らのレジュメ(米版履歴書)作りに励む。メジャーリーグで仕事をするために何が必要なのか、もちろん答えは1つではないが、その就職活動を経験した身として考えてみたいと思う。

まず必要なのはネットワークだ。日本で「コネ」はあまり良いイメージを持たないかもしれないが、米では「ネットワーキング」は1つの能力とさえ捉えられている。大袈裟な表現ではあるが、「Its not what you did, but who you know(何を知っているかでなく、誰を知っているかだ)」といういい回しが使われるほどだ。多くの学生は在学中に積極的にネットワーク作りに励む。いろいろなイベントでボランティアをしたり、インターンをしたりすることで関係者と繋がることを求めるのである。スポーツ業界の狭き門をこじ開けるためには、ちょっとした入り口を作ってくれる存在を、誰しもが求めているのである。

そして次に必要なのは秀でた一芸。スポーツ業界には「スポーツ馬鹿」はいらないとよくいうが、球団で働くのに求められるのは「野球愛」よりは「即戦力になれる一芸」のほうが重要だ。野球での仕事は土日休みもなければ、メジャーリーグであれば制限なく延長戦がおこなわれるため、定時というのもほとんど存在しない。ある程度の野球愛がなければ、この過酷日程に耐えられないのは確かだろう。だが、求められるのは専門的な一芸であり、ビジネスマインドだ。

激化する「椅子」をめぐる競争

最近では日本でもビジネスの世界から転職する人材も多く、少しずつではあるが異業種の人間がフロント入りを果たしている。メジャーリーグのフロントに目を向けると、名門と呼ばれるハーバード大学、イェール大学など卒業をしたエリートたちが多く存在する。

私自身の経験を述べると、日本人選手のメジャー挑戦の恩恵を受けて7年間現場で仕事をさせていただき、「日本語-英語の通訳」という一芸で仕事を得ることができた。そして一芸を持ちつつ、さらに幅を広げ自分の居場所を見つけてきた日本人スタッフは、メジャーリーグに多く存在する。

私は残念ながらその一員になれなかった。2014年に自身2度目となるウィンターミーティングに参加するため、開催地であったサンディエゴへ足を運んだ。いろいろな球団の人間と会い、今後の可能性を模索していたが、ある球団の元GMに言われた言葉が今でも頭に残っている。

「私が野球界で仕事を始めた頃と時代は変わった。今は大学院を卒業した者、ハーバード卒や申し分ない履歴書を持っている者に対しても、無償のインターンを断らないといけない。今から野球界で仕事を探すには大変厳しい時代になっている」と話してくれた。

私は力不足に過ぎなかったが、今やネットワークを持ち、秀でる一芸があっても野球界で仕事を得られない時代になってきている。メジャーリーグで仕事を得るには何が必要なのか、その舞台を目指す全員にとって永遠の課題だろう。

「たまたま」を引き寄せるために

ウィンターミーティングは代理人や球団関係者がシーズン後に1つの場に集い、さまざまな契約交渉がおこなわれる場として知られるが、その一方では野球界を目指す者にとって戦場の側面も持つ。MILB(マイナーリーグ・ベースボール)が運営する就職フェアには何百人と集まり、その部屋へのドアが開くと同時に全員が雪崩れこむ。そんな風景を目の当たりにした時は、凄い世界を目指してしまったなと思ったものだ。

学生時代から様々な経験を積み魅力的なレジュメを作り、積極的に球団にアプローチをして、外に出ていくことでネットワークを作る。あとは運とタイミングなのではないか。私も全ての始まりは通っていた大学に一番近いメジャーリーグ球団に日本人選手が入団したことから、積極的に行動することでチャンスを与えてもらった。

メジャーリーグで仕事をする者に話を聞くと、意外にそんなストーリーが溢れている。「たまたま」空きが出て、「たまたま」知り合いから連絡があってという「たまたま」が多い。そのたまたまを勝ち取る理由がそれぞれにはあるが、タイミングを引き寄せるためにアンテナを張り、日頃から積極的に行動し、どれだけその夢に向かって我慢をできるかが、メジャーリーグという舞台に近づけさせてくれるのではないだろうか。