パ・リーグが誇る鉄腕・涌井秀章の“すごさ”に迫る

2020-07-08 11:00 「パ・リーグ インサイト」望月遼太

《THE FEATURE PLAYER》移籍初勝利記念『わくわく仕草』まとめ

通算2000投球回を突破しているパの現役投手は、涌井投手ただ一人

 NPBにおける投手の通算防御率や勝率といった数字の集計対象となるのは、通算2000投球回以上を記録している投手のみとなっている。だが、現役選手の中でこの数字をクリアしているのは、涌井秀章投手(楽天)と石川雅規投手(東京ヤクルト)のわずか2名のみ。石川投手は東京ヤクルト一筋の現役生活を送っているため、パ・リーグに所属している選手に限定すると、この条件を満たすのは涌井投手ただ一人となっている。

 涌井投手はキャリアを通じて埼玉西武と千葉ロッテの2球団のみでプレーしており、その数字は全てパ・リーグ球団所属の選手として積み上げてきたものだ。投球回の他にも、現役選手の中でのパ・リーグ記録となる数字を、非常に多くの分野で残している。その具体的な内容と残してきた数字は、以下の通りだ。

 この表を見てもわかる通り、涌井投手はベスト、ワーストを問わず、数多くの部門において、並みいる投手たちの中でもリーグで最も多い数字を残してきた。これらの通算記録は、涌井投手が長年にわたって第一線で投球を続けてきたことの証明にもなるだろう。

 今回は、そんな涌井投手がこれまで残してきた記録や投球内容をもとに、「涌井投手のすごさ」について紹介していきたい。自身3球団目となる楽天へ移籍したこのタイミングで、15年間におよぶプロ生活のほぼ全てを第一線で過ごし続けてきた涌井投手の実績や特長を、今一度確認する機会となれば幸いだ。

3度の最多勝、1度の沢村賞

 涌井投手は埼玉西武時代の2007年と2009年、千葉ロッテ時代の2015年と、3度にわたってパ・リーグ最多勝を受賞した経験の持ち主だ。中でも2009年は涌井投手にとってキャリアハイと形容できるシーズンで、16勝6敗、防御率2.30という数字に加え、奪三振も199と200の大台まであと1歩に迫る自己最多の数字を記録。11度の完投、4度の完封と支配的な投球を披露した。その活躍が認められ、見事に沢村賞の栄冠にも輝いている。

 プロ2年目の2006年から5年連続で2桁勝利を記録していた涌井投手だが、2011年からの4年間は故障やリリーフ転向といった要素も重なり、いずれも1桁勝利に終わる苦しい時期を過ごしていた。しかし、29歳で迎えた2015年に鮮やかな復活を果たして15勝をマークし、3度目の最多勝を獲得したという点も価値のあるものだ。千葉ロッテの投手としての最多勝獲得は、1998年の黒木知宏氏以来、実に17年ぶりとなる快挙となった。

 涌井投手が記録した3度の最多勝という記録は、ヴィクトル・スタルヒン氏の6度(元巨人ほか)、斎藤雅樹氏(元巨人)の5度、稲尾和久氏(元西鉄)、野茂英雄氏(元近鉄)の4度に次ぐ、歴代5位タイの数字となっている。もしも涌井投手が2020年以降に楽天で自身4度目の最多勝に輝けば、稲尾氏と野茂氏という偉人に肩を並べると共に、史上初となる3球団での最多勝という快挙にもなる。涌井投手にとって、新天地でのプレーは球史に名を残す偉業への挑戦でもあるのだ。

全12球団からの勝利

「全12球団から勝利」という記録は、長いNPBの歴史でも18名しか達成していない希少なものだ。そして、その18名の中には涌井投手も含まれている。埼玉西武時代に自身の所属する埼玉西武を除く11球団から勝ち星を挙げていた涌井投手は、千葉ロッテへの移籍1年目となった2014年に古巣からの白星を記録し、全12球団からの勝利を達成。パ・リーグの球団のみに在籍してこの記録を達成したのは、涌井投手が史上初だった。

 この事実が示す通り、シーズンごとに対戦チーム別の防御率に差異こそあれど、涌井投手は長いスパンで見て極端に苦手とする球団を作っていない。年間を通じて各球団との対戦を続けていくローテーション投手にとって、大きな苦手意識を持っている球団が存在しないということは、安定感を保つうえでも重要な要素といえる。

豊富な変化球

 多彩な球種を活かして相手打線に的を絞らせない投球術も、涌井投手が持ち味としている武器の一つだ。フォーク、チェンジアップ、スライダー、カットボール、カーブ、シュートと実戦レベルの球を数多く備えており、それでいて、2019年の最終登板となった9月24日の埼玉西武戦で球速150km/hを記録しており、30歳を過ぎた現在でも速球の威力は健在。特定の球種に頼らずに投球を組み立てられる引き出しの多さは、その日の出来によって軸にする球を変えられるという点でも、先発投手に向いた特性と言える。

 涌井投手は精度の高いフィールディングや常に冷静なポーカーフェイスも含め、投球以外の面でも落ち着き払ったマウンドさばきを見せていた。そのため、投球の完成度の高さも相まって、若い頃から「ベテランのよう」と評されることも多かった。そして、2020年には新たな球種であるシンカーの習得にも取り組んでおり、実際にベテランの域に達しつつある現在もなお、現状に満足することなく新たな武器を模索し続けている。

完投の多さ

 2007年と2009年にはそれぞれ11度の完投を記録するなど、プロでの15シーズン中13シーズンにおいて最低1度は完投を記録。完投がなかった2005年は高卒1年目であり、2012年は年間30セーブを挙げるなどリリーフとしての登板が中心だったことを考えれば、先発投手としての登板機会があった年においては、必ずと言っていいほど完投を記録してきた。

 加えて、通算で記録した無四球試合は13試合と、現役選手の中では最多の数字を記録している。完投能力の高さのみならず、終盤のイニングになっても制球力が落ちないのが涌井投手の凄みの一つだ。2019年も18試合の登板で2度の完投と1度の無四球試合を記録しており、その完投能力の高さは相変わらずだ。

 涌井投手が今季より所属する楽天は、2019年に2度の完投を記録し、規定投球回にも到達した美馬学投手が、同年オフにFAで退団。チーム全体でその穴を埋める必要があるが、完投能力の高い涌井投手はまさにうってつけの存在といえる。34歳で迎える今シーズンも堅実な働きを見せてくれれば、新天地でも大きな戦力となってくれそうだ。