ミスターファイターズ・田中幸雄さんに聞く! 北海道日本ハムファイターズの現在地〜一軍編〜

2020-09-21 09:59 「パ・リーグ インサイト」吉田貴

「ミスターファイターズ」と呼ばれた田中幸雄さんは、北海道日本ハムの一軍、ファームの両方でコーチ経験がある。かつて見てきた選手たちにどのような印象を持っているのだろうか。今回は一軍選手の話題を中心にお送りする。

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異例のシーズンを戦うカギは「投打のバランス」。エース&主砲の活躍をどう見る?

 今季はこれまでにない特異なシーズンであると言えよう。3カ月以上開幕が遅れ、試合数も前年の143試合から120試合に減少。クライマックスシリーズに進めるのも、1位と2位のチームのみとなった。この条件について田中さんはどう見ているのか。

「野球は投手と野手の守りで失点を一番少なくしていくことが大事だと思います。もちろん点を取るためには打つことも必要です。ただ、打者と投手のバランスがシーズンでうまくいければ、良いシーズンを送ることができると思います。

 今年は中田翔が調子が良いので、やはり4番の活躍がキーポイントかなと思います。主砲の勢いはそのままチームの勢いにつながりますからね」

 その言葉通り、「打」の面で言えば主砲・中田翔選手の活躍はまさに4番と呼ぶににふさわしいものであると言えるだろう。9月21日時点でリーグトップの25本塁打を記録し、打線をけん引している。一方で気になるのは、エース・有原航平投手だ。昨季の活躍を考えれば、5勝7敗、防御率3.93とやや苦しんでいる状況だ。ただ、田中さんは有原投手のボールは確かなものだと断言する。

「本来はリーグを代表するNo.1の投手で、能力的には十分活躍できる投手です。見てても不運な部分があったりする。投げるボールはもう一級品ですよ。負けるわけはないというくらいの投球ができる投手です。もちろん完璧にはいかないかもしれない。でもそれぐらいのものを持っていますね」

 復調に向けて光が見えているのも確かだ。9月19日の千葉ロッテ戦では8回無失点の好投を見せ、今季5勝目を挙げている。前半の記事で、田中さんは投手に必要な能力について「打者との駆け引きができるコントロール」と語っていた。この試合で与えた四球はわずかに2つ。エースの復調で好調のチームをさらに勢いに乗せたいところだ。

杉浦稔大は「常時100球で6、7回」を目標に

 投手陣全体に視点を移すと、チーム防御率はリーグ2位の3.88(9月21日時点)と奮闘している。先発陣では昨季ケガに泣いた上沢直之投手を筆頭に、バーヘイゲン投手、マルティネス投手のダブル助っ人など好投手をそろえている。中でも今回注目したのは、杉浦稔大投手だ。前所属である東京ヤクルト時代から故障に苦しみ、北海道日本ハムに移籍後も5イニング前後の登板が中心となっていたが、今季は最長で8回のマウンドにも立ち、5勝を挙げている。

「スピンの効いたノビのあるストレートを投げますし、コントロールも良いです。段階を踏んで投球数なども考えながら少しずつ増やしていますしね。常時100球ちょっとぐらいで6回、7回ぐらいまで投げることができてくるとまた変わってくるかもしれない。

 ストレートで空振りやファウルが取れる投手はそんなにいないですからね。速くても打ちやすい質と打ちづらい質とありますからね。160km/hを投げても、棒球だと打たれる可能性もあるので、スピン量があって、ホップしているようなボールを投げられたら。もちろん、緩急をつけてバッターのタイミングとかを外していかないとなかなか抑えられないこともありますが、杉浦はそういうものも持っていますから」

北海道日本ハムファイターズ・杉浦稔大投手(C)H.N.F.

北海道日本ハムファイターズ・杉浦稔大投手(C)H.N.F.

堀瑞輝の好不調はストレートの質と制球

 救援陣では、宮西尚生投手が8月12日の千葉ロッテ戦で自身の日本記録を更新する通算350ホールドの偉業を達成している。確かに、救援陣では玉井大翔投手が20試合連続無失点を記録するなど、安定した投球を見せている。

 そんな中で注目したいのは、中継ぎ左腕の堀瑞輝投手だ。堀投手はここまで27試合に登板し、防御率3.47の成績を残しているが、失点した試合ではいずれも四球で走者を出す場面が目立っている。今後の課題について、田中さんは次のように指摘する。

「良い時と悪い時の差が小さくなると良いですね。良い時はストレートが走っていて、コントロールも良い。真っ直ぐが走れば、それだけ得意なスライダーのキレも良くなりますからね。多少投げミスしても、そういう時ってアウトになったりするものなので」

 2016年にドラフト1位で北海道日本ハムに入団した堀投手の能力は、当時ファーム監督であった田中さんも実際に見ている。同世代の他球団の投手では、オリックス・山本由伸投手や千葉ロッテ・種市篤暉投手など好投手が並んでいる。堀投手も、入団当初から優れた能力を示していたようだ。

「入団当時から良いストレートを投げてましたよ。スライダーも良かったですし、やっぱりちょっとコントロールのミスが目立っていたので、そういうところをつぶしていく段階ですね」

 昨年は自己最多の53試合に登板し、多くの経験を積むことができた一方で、防御率は5.22と悔しさもの残った。今季、課題のコントロールを改善することができれば、チーム内での信頼も一段と高まるはずだ。

不調を乗り越えた大田泰示はまた一回り成長する

 そして話題は野手陣へ。まず話題に上がったのは大田泰示選手だ。インタビューを行ったのは8月9日だったが、田中さんも大田選手の復調の兆しを感じていた。

「開幕してすぐに調子が良い状態に入って活躍できればいいですが、そういった選手ばかりではないですから。だた、(大田選手が)持っているものは一流のレベルです。なので本調子に戻ってくれば打ち出すと思います。今はそういう状況に入ってきていると思いますよ」

 この言葉通り、開幕直後は1割台だった打率もじわじわと良化し、9月21時点で打率.297を記録。8月に限れば月間打率.366と本来の姿を取り戻している。開幕という点では今季の変則日程の影響も考えられるが、田中さんはそれもまた「経験」の一つだと話す。

「全員が悩んで、考えて、練習に取り組んでゲームに臨みますからね。長年やっていればそういう時(変則的なシーズン)もあったりしますから。長くやっていく中で、『今年はスタートダッシュが悪かったな。来年こうしてみよう』とか、勉強して、分かったものの中で次につながる取り組みができると思います」

 開幕直後の不調も一つの「経験」だとするならば、それを乗り越えた大田選手のさらなる成長にも期待できる。田中さんも、大田選手の底知れない潜在能力に期待していた。

「(大田選手は)まだまだ年齢も30歳ですし、まだまだできますからね。いろんな経験をして、もっともっと彼は打てると思います。ホームランも40発、50発打てるくらいの能力も持っている。そのためにこれからどういうことをしていけばいいのか、というところでしょうね」

杉谷拳士は「一軍のレギュラー」として十分な能力が

 田中さんが見てきた選手は数えきれないが、杉谷拳士選手もその一人だ。近年では持ち前のキャラクターで注目を集める場面もあるが、田中さんは杉谷選手の野球センスも非常に高く評価している。

「彼は二軍にいた頃からずっと、一軍のレギュラーを取れると見ていました。小柄ですけど能力は高い。どちらかというと打力は右打席の方が良いですが、左打席でも打てるのも大きな特徴ですね。ただ、性格上ちょっとこう、猪突猛進で周りが見えなくなるところがあります。それが彼の特徴かもしれないですね(笑)

 堅実性というか、そういうものが出てくれば、十分一軍でもレギュラーとして活躍できる選手だと思います。二軍でも2年目に最多安打を打つだけの力がある。記録(当時イースタン・リーグ最多記録となる133安打)を作れるだけの能力があります。中田翔もファームで20発以上ホームランを打っていましたよね。それだけ打てると、一軍でも十分結果を残せる」

 杉谷選手は2008年のドラフトで指名され、プロの世界に足を踏み入れた。2007年の現役引退後、2010年から北海道日本ハムのファーム打撃コーチに就任している田中さんは、いわば杉谷選手の成長をずっと見守ってきた人物であると言える。だからこそ、その評価も折り紙付きだ。

北海道日本ハムファイターズ・杉谷拳士選手(C)H.N.F.

北海道日本ハムファイターズ・杉谷拳士選手(C)H.N.F.

清宮幸太郎は「一軍だからこそ見られる」苦手なボールへの対応と守備に課題

 同じくファームで結果を残した選手といえば、清宮幸太郎選手が挙げられるだろう。2018年はファームで17本塁打を記録し大器の片鱗を見せたものの、一軍ではプロの壁に跳ね返されている状況だ。その課題を、田中さんは次のように分析する。

「自分の狙っている甘いボールを捉える確率は高い。打ちやすいボールはしっかり打てると思いますが、一軍の投手となるとデータもそろってきて、苦手なところも攻めてくる。打ち取るための配球をしてくる中でどう攻略するかが大事です。軸がぶれないように、体をもっと鍛えなければならないですね」

 同様に、その守備にも課題が残っているという。清宮選手の主なポジションは一塁。チームによっては外国人選手が担うなど「打」のライバルが多い一方で、内野ゴロの送球を受ける場所として失策も許されない。また、「ホットコーナー」と称されるように、左打者の引っ張った強い打球も処理しなければならない重要なポジションだ。

「あとは守備でしょうね。守備と送球がもう少し向上することだと思います。体が柔らかいのは見ても分かるので、柔らかさに強さを加えると良い。下半身の強化だったり、瞬発力っていうのを身につければ打球反応速度も速くなると思います」

 同年代には東京ヤクルト・村上宗隆選手や千葉ロッテ・安田尚憲選手などがいる。そうした選手の中でも世代を代表する打力を誇っていただけに、その潜在能力は高い。清宮選手が一軍の壁を破る時を待つばかりだ。


 通算2012安打、ファイターズ一筋の「ミスターファイターズ」が見てきたかつての若手選手たちは、今や北海道日本ハムの中心選手に成長している。その意志を受け継いだ選手たちの今後の活躍が楽しみだ。そして、解説席から見守る田中さんのコメントにもぜひ注目してほしい。


取材・文 吉田貴

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