これぞまさに”奇策”。27.431m四方内での攻防、セーフティーバントに注目 【注目動画】

2021-01-21 19:00 「パ・リーグ インサイト」編集部
東北楽天ゴールデンイーグルス・辰己涼介選手(C)パーソル パ・リーグTV

東北楽天ゴールデンイーグルス・辰己涼介選手(C)パーソル パ・リーグTV

 セーフティーバント。それはヒッティングの構えの選手が突如としてバントに切り替え、内野安打を狙うプレー。まさに野球における”奇策”とも呼べるプレーであろう。「パーソル パ・リーグTV」の公式YouTubeチャンネルでは、「生き残った!! 絶妙バント2020」と題し、今季のセーフティーバントを特集している。

 この「セーフティーバント」というコンマ何秒を争う戦いは、内野の塁間27.431m四方の中で起こる攻防であり、試合の流れすら一変させる大きなプレーでもある。また俊足な選手が仕掛けるイメージが強いが、必ずしもそうではない。強打者が意表をついて完璧なセーフティーバントを決めることもある。見れば見るほど奥深さに引き込まれてしまう「セーフティーバント」。ぜひこのオフシーズンだからこそ、ややコアな視点にも注目して見ていただきたい。

動画はこちらから
https://youtu.be/FmDNaphAKcc

自分も生きる。“魂”のヘッドスライディングを見せた杉谷拳士

○北海道日本ハム・杉谷拳士選手(動画01:14〜)

 セーフティーバントは、日本で多く見られる戦法。海外では「スモールベースボール」とも言われる日本野球の象徴的なプレーの一つでもある。そのため、メジャーリーグや海外でプレーをしていた選手にとっては、不慣れで難しいフィールディングだ。北海道日本ハム・杉谷拳士選手は、選手や守備位置を読み切った上で絶妙なセーフティーバントを決めてみせた。

 7月28日のオリックス戦。試合は2対1で北海道日本ハムが1点リードのまま7回裏へ。北海道日本ハムは、なんとか追加点が欲しい場面で1死1塁と得点のチャンスを作る。なんとしても走者を2塁に進めたいこの場面、打席には杉谷選手が立つ。初球、セーフティーバントの構えをして内野手の動きを見る。この時、一塁手はロドリゲス選手。また、アルバース投手は左投げでもあるため、連携や体勢からしても投手と一塁手の間に転がすのが最も確率が高いコースであっただろう。

 杉谷選手はそれを瞬時に察知したのか。カウント1-1からの3球目、一塁方向に絶妙な強さでバントを転がすと、ロドリゲス選手のチャージがわずかに遅れた。アルバース投手も滑り込みながら捕球するも、懸命にヘッドスライディングをした杉谷選手の手が先にベースに到達(動画01:14〜)。このプレーの後、中田翔選手が3ラン本塁打を放ち、試合を決定づけた。杉谷選手自身も生きたからこその3ランとなった。杉谷選手の”魂”がこもった勝利への執念に注目していただきたい。

好投手の攻略法。俊足が武器の選手が見せる「アイデア」

○楽天イーグルス・辰己涼介選手(動画01:50〜)

 苦手な相手には「アイデア」をもって攻略する。楽天の辰己涼介選手は、自慢の足を生かして突破口を模索した。8月23日の北海道日本ハム戦、この日の先発は「楽天キラー」とも評されるバーヘイゲン投手。この試合もバーヘイゲン投手を攻略できない展開に。下位打線を迎えた5回表も簡単に2アウトを取られてしまう。そして打席には9番・辰己涼介選手。第1打席では見逃し三振に倒れていた。

 3人で終わるわけにはいかない。抑えられていたバーヘイゲン投手に対して、辰己選手はヒッティングで勝負はしなかった。初球、一塁線に絶妙なセーフティーバントを転がすと、自慢の俊足も生きて一塁は余裕のセーフに。記録は「投手前安打」(動画01:50〜)となった。ここから盗塁も決め、2死2塁のチャンスを作った。二塁打を放ったわけでもクリーンヒットを放ったわけでもないが、それと同じくらい、いやもっと大きなダメージを与える「足」を絡めた攻撃。その懸命な姿勢から好投手の攻略の糸口が見つかるのかもしれない。

○福岡ソフトバンク・周東佑京選手(動画02:56〜)

 今季50盗塁を達成し、盗塁王に輝いた周東佑京選手の前では一瞬も守備の乱れは許されない。8月29日の北海道日本ハム戦。北海道日本ハムの先発は、好投手・有原航平投手だった。0対0で迎えた3回裏、1死走者なしから周東選手がセーフティーバントを試みる。俊足を警戒して守備が焦ったのか、捕手の宇佐見真吾選手の送球がそれ周東選手は2塁へ進塁。先制のきっかけを作った(動画02:56〜)

 ここでは、周東選手のセーフティーバントに込められた技術を見ていきたい。周東選手は、足を踏み出してからバントを構えるまで、ほとんど目線の上下動がない。打撃にしてもそうだが「目線のブレ」というのは、ボールを捉えにくくしてしまうもの。しかしそれと同時に、強い体の軸がないと「目線のブレ」はなくせない。セーフティーバントの際はいち早く一塁へ到達したいため、ついつい目線を切ってしまいがちだが、周東選手はしっかりバットに当たる瞬間までボールから目を離していない。そのため、絶妙なコースへバントを決められているのだ。左打者にとってはお手本のような周東選手のセーフティーバント。「目線」にも注目してぜひ見ていただきたい。

これはお手上げ。強打者が見せる繊細なセーフティーバント

○千葉ロッテ・マーティン選手(動画03:22〜)

 三塁手が送球できずに立ち尽くすと、それを見て一塁ベース上で「してやったり」と言わんばかりの笑顔を浮かべるのは、千葉ロッテ・マーティン選手。来日2年目のシーズンとなった昨季、マーティン選手は104試合に出場するとチームトップの25本塁打を放つ活躍を見せた。持ち前のフィジカルの強さから、打撃では豪快に引っ張る特大ホームランが印象的な選手だ。当然野手もマーティン選手が打席に立つと守備位置を深くして守る。

 しかし、マーティン選手はその意表をついた”奇策”を披露した。8月30日のオリックス戦、4回表の第2打席だった。この回先頭打者だったマーティン選手は、守備位置が長打を警戒しての深めだった三塁手の山足達也選手を見逃さない。初球、全く相手の頭にないセーフティーバントをして打球きれいに三塁線に転がすと、山足選手がボールに触れる頃にはマーティン選手は一塁へ到達していた(動画03:22〜)。意表をつかれたのは観客も同じである。マーティン選手がセーフティーバントを決めると、球場はどよめいた。

 もしこれがファールになってしまっては、次から警戒されてしまって成功する確率は大きく下がっただろう。幅広い視野だけでなく、一発で決めきる高度なテクニックも持ち合わせていたマーティン選手。なかなかお目にかかれないマーティン選手のセーフティーバントをもう一度ご覧いただきたい。

○埼玉西武・外崎修汰選手(動画04:02〜)

 埼玉西武・外崎修汰選手が見せた”奇策”は、2球目からの急な方針転換だった。9月2日の千葉ロッテ戦、6回表1死走者なしの場面。外崎選手はカウント1-0からの2球目に、千葉ロッテ・小島和哉投手が投じたインコースのカットボールを強振した。打球はファールボールとなったが、タイミングは合っていた。

 カウント1-1とヒッティングカウントで迎えた3球目。投球前、外崎選手は2、3度ちらりと三塁手を見る。三塁手の安田尚憲選手はセーフティーバントをほぼ警戒していないと判断したか。外崎選手は、確信を持った表情で3球目にセーフティーバントを仕掛けると、安田選手は裏をかかれ、一塁に送球すらできなかった(動画04:02〜)

 セーフティーバントというのは、きれいに弾き返された安打より投手のショックは大きいはずだ。実際にこの回外崎選手は出塁後、盗塁を決めると相手の守備の乱れの間に本塁に生還。文字通り「足でかき回す」攻撃で、チームに先制点をもたらした。その後、チームは4対2で勝利。まさに試合の流れを変えたワンプレーとなった。

無駄な時間0秒。高度なプロの技が詰まったプレー

○オリックス・西浦颯大選手(動画05:04〜)

 オリックスの西浦颯大選手は、持ち前の機動力を生かした守備や走塁が魅力の選手。彼もまた一級品のセーフティーバントを披露した。9月18日の埼玉西武戦、2回裏の無死1、2塁の場面で三塁線へ絶妙なバントを披露した(動画05:04〜)。最初の判定ではアウトが宣告されたが、リクエストにより判定が覆った。このプレーで結果は西浦選手の足が勝ったが、一方で埼玉西武のニール投手も好守を見せた。ニール投手は、西浦選手の打球に反応し素早くマウンドを駆け下りると素手でボールをキャッチ。そこから一塁手へ完璧な送球を投げた。まさに、プロの技術が詰まった攻防。両者ともに最善を尽くした結果、わずかの差で西浦選手に軍配が上がった。

 また西浦選手は現在、国指定の難病である「両側特発性大腿(だいたい)骨頭壊死(えし)症」と闘病中である。再びグラウンドを縦横無尽に駆け巡る背番号「00」が見れることを祈って西浦選手の好プレーを振り返っていただきたい。

文・小野寺穂高

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