千葉ロッテ・吉田裕太、シーズン無安打記録の屈辱からの逆襲

2017-02-16 00:00 「パ・リーグ インサイト」マリーンズ球団広報 梶原紀章

昨年の悔しさを胸にキャンプに臨んでいる。吉田裕太捕手のプロ3年目となった2016年シーズン。不名誉な記録だけが残された。24試合に出場し、30打数(35打席)無安打。昨シーズンの日本プロ野球における最多打数ノーヒット。そして野手に限ると一シーズンを通しての無安打新記録となってしまった(これまでは73年、広島・久保俊己のシーズン32打席無安打)。苦しみ、もがき、悔しい思いをした一年はようやく終わった。吉田は今、新たなスタートを切った。

「苦しかったですね。ヒットを打ちたい気持ちばかりが前に出て、気持ちも落ち着かない。ヒットが欲しいと焦ると、ますます打撃がおかしくなる。悪い方にどんどん行ってしまった。悪循環に陥ってしまっていました」

石垣島キャンプは第3クールから快晴が続いた。青空の下、吉田はまだ悔しさが残る表情で昨シーズンを振り返った。ムードメーカー的な明るさが持ち味の若者だが、昨年はいつのまにか寡黙になっていた。シーズンが終わり秋季キャンプ、自主トレと悔しさをボールにぶつけるように、ひたすら野球と向き合った。苦渋にまみれた2016年。振り返りたくはないが、忘れてはならない。いつも頭の中に、もがき苦しんだ日々の残像が残る。もう二度と味わいたくない。だからこそ、その反省を生かすべくガムシャラな姿勢で春季キャンプに挑んでいる。

スタートは最高だった。「オマエで行くぞ!」。シーズン開幕前日の打撃練習中に伊東勤監督から声をかけられた。前年117試合に出場したライバルの田村龍弘捕手ではなく、吉田がプロ入り初となる開幕スタメンを言い渡された。相手はファイターズ。先発は日本中が注目をする投手・大谷翔平。本拠地は満員に膨れ上がり、異様な雰囲気に包まれていた。その試合、ヒットこそ出なかったものの巧みなリードでチームを勝利に導いた。マウンド付近での勝利のハイタッチ。その中心に背番号「24」がいた。幸先のよいスタート。心地よい気分に包まれた。しかし、地獄の日々はそこから徐々に始まった。

「打撃に関して去年、イメージと違うという思いはずっと心の中にあった」

ヒットがなかなか打てなかった。捕手ながらの力強い打撃を評価されてプロ入り。1年目は50試合で27安打(2本塁打)。2年目は巨人戦(6月24日)でサヨナラ打を放つなど25安打を放った男が勝負の年として挑んだ3年目に大きく自分の打撃を見失った。焦り、悩んだ。もがけばもがくほど、どつぼにはまり、本来の自分のスタイルから、かけ離れて行くのを感じた。ついに5月31日に一軍登録抹消された。そこから長かった。ファームで必死に汗を流し再度、チャンスを待ったがなかなか声はかからない。その間にライバルの田村は6月の月間MVPに輝くなど一軍で大きな活躍を見せていた。存在を失った日々が流れた。ようやく呼ばれたのは8月24日。抹消から約3か月が過ぎていた。

「待ちに待った一軍昇格。よし、やってやるぞと汚名返上のチャンスに燃えていたのですが…。あれは落ち込みました」

捲土重来。若者は今度こそとばかりにやる気に漲っていた。しかし、現実は残酷だった。結果を出すことはできなかった。3か月出番を待ち、4日で二軍に再び落ちた。8月27日に登録を抹消された。自分が情けなくなった。

「いろいろな人から声をかけてもらいました。高校、大学のチームメート、先輩や後輩。でも、みんな気を使って、オブラードに包んで連絡をくれるんです。その気持ちがすごく伝わった。ありがたかったけど、申し訳ない気持ちの方がはるかに強かった。オレが活躍をしてみんなを喜ばせないといけないのに逆に気を遣わせてしまって…。オレ、なにやっているんだよって」

チームの先輩選手もメールをくれた。「ここで野球が終わるわけじゃない。だから一からファームでやり直せ」。周囲の気持ちが痛いほど伝わったからこそ、すぐに立ち上がった。試合後には二軍バッテリーコーチとミーティングをしてリードを反省した。自宅に戻ってからも一軍の試合をあえて見て勉強をした。感じたことをメモに書きとめた。そして打撃も一から見つめ直した。

「打撃に関してはあれこれ考え過ぎていました。グリップの位置がどうだとか。最初の構えがしっくりこないとか。大事なのはボールに当たる少し前から瞬間のバットの入れ方であったりするわけで、その辺を見つめ直しました」

結局、吉田は2016シーズン、無安打のまま一年を終えた。どん底の一年。しかし、吉田はすぐに立ちあがった。屈辱から背を向けず、歯を食いしばり、前向きに練習に取り組んだ。秋季キャンプ、その後の自主トレ。例年は先輩選手たちと行う自主トレも今回はあえて一人で行う事を選択した。黙々と一人でトレーニングを重ねる中で、弱かった自分と向き合った。昨年の悔しさを胸に野球漬けの日々を送った。

そんな時、深く心に残ったメッセージが届いた。知人とのメールのやりとり。「大変な一年でした」とメールをすると、「大丈夫だよ」と返信が来た。「大変は、大きく変わると書く。だから、きっと大きく変われるよ」。傷ついていた若者の心にスッと入ってくるメッセージだった。言葉とはなんとも不思議なものだ。そう言われると、胸の奥底から希望と勇気が湧いてくるような感覚になった。「やってやるぞという気持ちになった。今年は大きく変わる年にします」。屈辱の一年から栄光の一年へ。吉田は大きく変わる。変えてみせる。石垣島春季キャンプはいよいよ最終クールに入った。そこには誰よりも声を出し、誰よりも懸命にボールに向き合う背番号「24」の姿がある。悔しさを糧に今年は絶対に大きく変わろうと懸命に生きている。2017年は吉田裕太から目が離せない。