千葉ロッテマリーンズ 球場アナウンス担当 谷保恵美さん【パ・リーグお仕事名鑑 Vol.1】

2018-07-30 18:00 「パ・リーグ インサイト」岡田真理

グラウンドの上で輝く選手やチームを支えているのはどんな人たちなのか。
本連載「パーソル パ・リーグTVお仕事名鑑」でパ・リーグに関わるお仕事をされている方、そしてその仕事の魅力を紹介していきます。

選手の大事なシーンをつくり出す仕事

プレイボールの約7時間前。ZOZOマリンスタジアムでアナウンスを担当する千葉ロッテマリーンズ職員・谷保恵美さんは、球場に入るやいなや、その日の出場選手に関する資料づくりに着手する。ナイター終了時間までの、長い一日の始まりだ。

「アナウンスは試合が始まってからが本番ではあるんですけど、試合前にも出場選手に達成間近の記録があるかどうかを確認したり、その日の試合のスポンサーを紹介する原稿をチェックしたりと、結構バタバタしています。プレイボールがかかると、『よし、これで試合に集中できるぞ』ってようやくホッとできますね(笑)」

とはいえ、谷保さんの本領が発揮されるのは、やはり試合がスタートしてからだ。マイク前の“定位置”に座ると、選手と同じように一瞬でスイッチが入る。ただ、アナウンス歴28年目のベテランであっても、緊張感は初めてプロ野球公式戦で選手の名前をコールした時とほとんど変わらないそうだ。

「選手によって『アナウンスしてから曲をかけてほしい』とか『ネクスト(バッターズサークル)から打席に向かう途中でコールしてほしい』など、リクエストがあったりもするので、選手の背中をじっと目で追ってルーティンを覚えるようにしてます。打席に立つ選手のリズムを壊さないように心がけています。今でも常に緊張感はありますよ」

見つめているのは選手の背中だけではない。その日の空模様や風向きのほか、時間に応じて太陽の位置も確認する。スタンドに目を配り、熱中症やファウルボールへの注意も喚起しなくてはならないからだ。

「毎日同じことをしているように思われがちですが、日によって状況も変わるので、試合中は気を抜くことができません。3時間半とか4時間はずっと集中していて、なかなかトイレに行けるタイミングもないので、試合前は水分をあまり摂らないようにします。あとは、熱が出ると声が出なくなるので、寝るときは首にタオルを巻いたりして風邪には十分気をつけていますね。絶対に穴をあけられないので、日頃からの自己管理がとても重要なんです」

コンディションの管理はもちろんのこと、実は気持ちのコントロールもアナウンスにとって大事な要素だという。

「昔は言いにくい選手の名前を間違えそうになったこともありましたけど、動揺すると引きずってしまって声が硬くなるんですよね。何かミスをしても反省はとりあえず後回しにして、その場ではすぐ気持ちを切り替えること。また、チームが劣勢の時も暗くならないよう、テンションを上げて明るい声を出すことも心がけています」

独学でスキルを磨き、アナウンス担当に

谷保さんは北海道出身。子供の頃は王貞治さんのホームランが毎晩の楽しみで、野球中継を観てからでないと布団に入らないほどの野球っ子だった。高校野球の試合をテレビで観戦しながら、「1番・〇〇君」とアナウンスの真似事をしたこともあるそうだ。

高校と短大で野球部(短大時は札幌大野球部)のマネージャーを経験し、短大時代に大学のリーグ戦で初めて球場アナウンスを担当。その時「君は野球が好きなだけあって間の取り方が上手だね」と褒められたことも、おそらく今につながっているのだろう。高校野球のアナウンスに強い憧れがあったため、男子高校が当番校になった際の全道大会のアナウンス担当を買って出たこともあるという。

「お客さんとして野球を観戦する感覚とはまったく違うんだ、私は試合を進行しているんだなぁって思いましたね。ただアナウンスすればいいわけじゃないんだ、って。その時味わったグラウンドの臨場感と、アナウンス係としての責任感。それが、今の仕事への動機づけになったことは間違いありません」

短大卒業後、実家の商売の手伝いや地元でのアルバイトで生計を立てていたが、アナウンスの道をあきらめきれず、「これを仕事にするにはプロ野球しかない」と決意。プロ野球全球団に電話をかけて、アナウンス業務の求人があるかどうか問い合わせた。

「とことん断られていたのですが、3年ほど粘った頃にようやくロッテから『ウグイス嬢の採用はありませんが、よければ履歴書を』と言われて、とにかく入ってしまおうとチャレンジしました。ですので、最初は総務・経理に配属されました。ただ、アナウンスの仕事がしたいという希望だけは伝えておきました」

チャンスはないかもしれないと言われてはいたものの、もしチャンスが来たらすぐにできるようにしておきたい。そんな思いで、当時の本拠地だった川崎球場や他球場の二階席でひっそりとアナウンスの練習をしたり、試合中継を観て真似たりメモしたり、独学でスキルを磨いていった。

「アナウンス担当だった先輩が辞めたのを機に、二軍の浦和球場で初めてマイクの前に座らせてもらいました。ただ、専任になったわけではなく、所属は経理担当。。昼間に浦和でアナウンスをして事務所に戻って経理業務を行う毎日でした。そのうち、『一軍も勉強しなさい』と言われて、ついに川崎球場でも任されることになって。当時お客さんが少ない球場と言われていましたが、やはり一軍の球場は綺麗な人工芝で、ナイター照明も眩しくて、すべてがキラキラして見えましたね」

自らスキルを高めていこうとする姿勢は経験を積んだ今も健在で、最近では同じ千葉県で交流もあるBリーグの「千葉ジェッツ」の試合をほかの球団スタッフとともに視察。他のスポーツの試合進行方法などを参考にすることもあるそうだ。

心根にある『好き』が技術をつくる

谷保さんが当時のロッテ・オリオンズに入社した1990年頃、野球界はまさに男社会の時代。女性スタッフは少なく、その業務もリリーフカーの運転手や券売所の販売員などに限られていた。しかも、夜10時を過ぎると女性スタッフはみんな帰宅を命じられたという。

「でも、今はプロ野球全体として、女性の活躍がいろんな分野で目立っていますよね。球団職員にも女性が増えたし、記者さんも昔に比べると女性がたくさんいます。業務も広がっていて、ビジネスの中核で活躍している女性も決して少なくない。弊社も産休がとれるようになったので、産後に職場復帰する文化も定着しつつありますよ。長く勤めることも可能な環境に変化していると感じます」

5年前から始まったレディースデーの企画では、様々な部署から女性スタッフが集まって運営を行っており、女性ファンが喜ぶきめ細やかなサービスの提供にも結びついている。そして、どの球団スタッフにも共通しているのが、「ファンの笑顔が見たい」という思いだ。

「私たち球団スタッフもアルバイトさんも、やっぱりチームが勝ってお客さんが喜ぶ顔を見た時に、職種問わずみんなやりがいを感じていると思います。あと、みんな『好き』という気持ちを根底に強く持っている。私の球場アナウンスに関してもそうです。技術も当然大事だけれど、上手にやろうとするよりは、まず野球が好きで、愛情を持ってやること。そうすれば、その気持ちが自然と声に乗っていきますからね」

好きなことを仕事にすることには、メリットだけがあるわけではない。谷保さんも過去にジレンマを抱えたり、行き詰まってしまったりしたことが何度かあったそうだ。

「でも、なぜ私がここにいるのかを思い返せば、辞めるまでには至らない。野球から離れている自分なんて、もはや想像すらできません(笑)。だから、困難に直面したら、自分が変わっていこう、違う考えを持ってみようと思うようにしています。それを乗り越えられるのも、やっぱり『好き』だからなんでしょうね」

学生時代に初めて味わったグラウンドの臨場感と、試合を進行しているという責任感。そして、打席に向かう選手にベストな環境を提供する緊張感。まさにそれらが、今感じる仕事の醍醐味そのものだと谷保さんは言う。唯一やり残しているのは、「優勝でございます!」のアナウンスだ。

「マリンスタジアムでロッテの優勝が見たい。胴上げが見たいんです。これまでの2回(05年、10年)はビジターでしたから。それと、もう一つ。嬉しいことに女性がどんどん活躍してきているので、さらに女性が輝ける職場環境を作ること。私が退職するまでには、女性が長く活躍していける会社にしていけるように頑張らなくてはと思っています」

◇お仕事名鑑はパーソルの特設サイトからご覧いただけます。
https://www.persol-group.co.jp/special/pacificleague/index.html

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