経験則は忘れ、変化を恐れず、逆境を楽しむ。オリックス・バファローズ球団社長 湊通夫さん【パ・リーグお仕事名鑑 Vol.8】

2018-09-27 10:00 「パ・リーグ インサイト」岡田真理

グラウンドの上で輝く選手やチームを支えているのはどんな人たちなのか。
本連載「パーソル パ・リーグTVお仕事名鑑」でパ・リーグに関わるお仕事をされている方、そしてその仕事の魅力を紹介していきます。

本社から球団へ ミッションは、さらなるファンの獲得

 日本で12人しかいないプロ野球球団の社長――そう考えると近寄りがたい存在のようにも感じるが、オリックス・バファローズの湊通夫社長は、選手や現場スタッフから「湊さん」と親しみをもって声を掛けられる身近な“兄貴分”だ。それは、湊社長がこれまで企画事業部長や事業本部長として現場で汗を流してきた背景があるからだろう。

 大学進学を機に、生まれ育った大阪から上京。卒業後もそのまま東京に残り、オリックスの前身であるオリエント・リースに入社した。大手研究機関を相手に情報通信関連のコンピューターのリース営業を数年経験した後、広報部に異動。その後、大阪エリアの支店に異動となり、ファイナンスやリース、企業コンサルティングにも携わった。野球との縁は、その頃思いがけず舞い込んでくる。

「きっかけは95年の、オリックス・ブルーウェーブ(当時)の優勝です。あまりの盛り上がりに広報現場が対応に追われていたので、その時大阪にいて、広報経験者だった私が球団の広報業務を手伝うことになり、5ヶ月ほど出向しました」

 その後再び東京に戻り、ファイナンスの債権を証券化し金融機関に販売する業務をしばらく担当していたが、リーマンショックで縮小。それを機に、2011年に球団から声が掛かり、今度は本職としてプロ野球の現場で奮闘することになった。

 本社にいた頃は、基本的に業務はすべてB to B。クライアントに対して、社長、役員、部長、課長など特定のメンバーの方としっかり人間関係の構築ができれば話が進む。しかし、球団で最初に配属されたのはチケット販売やファンクラブ運営などに関わる企画事業部。常にお客様と向き合う業務のため、それまで経験のなかったB to Cの視点が求められた。

「何十万人もお客様がいれば、何パーセントかは不満を持つ方も出てくるわけで、その割合をできるだけ少なくして多くの人に共通する満足度を高めること、つまり“最大公約数”を見つけ出すことを意識しなくてはなりません。それが自分にとっては新しい体験で、最初の頃は難しさを感じることもありました。ただ、まったく違う畑ということで、同時に面白さも感じましたね」

 最初に与えられたミッションは、ファンを増やすこと。カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)を導入し、ファンの属性に応じたアプローチを強化することで、約2万3000人だったファンクラブ会員を約5万5000人まで増やすことに成功した。

 球場では、学生インターンによるファンクラブの勧誘を積極的に実施。CRMに加えて現場でのアクションに注力したことも、会員数の増加につながった。

「もちろん、ファンの方には試合に勝って喜んでもらいたいです。でも、試合以外のところでも楽しんでもらうという視点は、ファンを獲得する上でとても大事です。試合を蕎麦に例えるならば、つゆとワサビがイベント。つゆとワサビだけ頼む人はいないけれど、その二つがよければ蕎麦も引き立つ。BsGirlsもそんな考えで始めたんです。そこでまた新しいお客さんが来てくれれば、ファンを増やすチャンスになりますから」

経験則を忘れ、常にチャレンジする姿勢

 企画事業部長、事業本部長を経て、2013年には京セラドームを運営する株式会社大阪シティドームの社長に就任。そして、今年1月からはオリックス・バファローズの球団社長を兼任することになった。球団社長とは、どんな役割を担う立場なのか。

「球団によって詳細は異なるかもしれませんが、基本的に球団社長は経営のトップなので、ビジネスラインの数字の状況を把握して、適切にディレクションすることがおもな仕事です。チームまわりのほうは、戦術などには口を出しませんが、チームマネジメントの部分で情報共有して補正していくことはあります。ショックアブソーバー的な立ち位置ですね」

 球場を360度囲む観客の“最大公約数”をいかに増やすか。その課題には社長となった今でも向き合っている。前職時代の業績は成功体験として糧になっているが、社長である以上冷静な視点も忘れない。

「現場を知っていることは私の強みでもあるのですが、経験則があまりに働き過ぎてしまうと、かえって弱みになってしまう。経験則のせいで失敗を恐れて、新しいチャレンジをしなくなることだけは避けたい。そういう意味では、過去の失敗や成功に囚われることなく、常に頭をリセットしておかないといけません。5年前に失敗したイベントであっても、時代やベクトルが変われば成功するかもしれないですから」

 頭の中を新鮮な状態に保つためにも、新しい感覚や若い人たちのアイデアが必要だという湊社長。だからこそ、球団職員には遊び感覚や視野の広さを求めているという。

「どう集客に結びつけるかというセンスはもちろん必要ですが、根本的に我々の仕事で大事なのは『好きであること』や『楽しむこと』だと思っています。ただ、実はそれが難しいことでもあるんですよ。ずっと同じことを淡々とやっているほうが安定するし、失敗もしないですからね。でも、それだとマンネリ化する。とにかく我々の仕事はチャレンジすることです」

 最近は中途採用で、他業種からの転職者も数多く受け入れている。人材を募集する際には、経歴などはほとんど重視しない。大事なのはその人の人となりと軸があるか。

「なぜオリックス・バファローズに入りたいのかが大事なので、過去にどんな仕事をしてきたかは関係なく、フラットな視点で見ています。つまり、情熱があればいくらでも球団で働くチャンスはあるということ。面接では逆に質問をしてもらうこともあるのですが、その質問内容も面接官としては興味深いところです」

楽しさを提供しつづけるという使命

 野球を観に球場に来てくれるお客様が、いかに楽しんでくださるか。日々それを考える中で、「スポーツ」という言葉の語源を改めて振り返ることがあるそうだ。

「私自身もスポーツは体を動かすことだと勘違いしていたのですが、もともとは『娯楽』という意味。“余暇を楽しむリクリエーション”というのが、スポーツが本来持つ意味なんです。それを知って、自分の中で腑に落ちた部分がありました。だったら、『こうあるべき』という固定観念は捨てて、まずは自分が楽しんでしまえばいい。ただ、それが自己満足になってはダメ。みんなが楽しめるアイデアを、自ら楽しんで出せるかどうかですね」

 アマチュアも含めて野球が盛んな土地である大阪に本拠地を構えていることは、非常にプラスにとらえている。野球協定で定められる保護地域は兵庫県だが実質的には大阪の球団として認知されている阪神タイガースの存在も、決して悲観的には見ていない。

「野球ファンが多いわけですから、それだけマーケットも大きいということ。とても有り難い環境です。実際、CRMでは80~85パーセントのお客さんが80キロ圏内のエリアから球場に来てくださっているというデータも出ています。我々も2008年にフランチャイズを大阪に移してから観客動員の伸びはいいですし、まだまだポテンシャルがあると感じています」

 球団社長という立場で野球に関わっていると、球団の未来だけではなく、プロ野球の未来について考えることもある。野球ファンや野球の競技人口が減少していると言われる今、その未来をどう描くのか。

「少子化が進んでいる以上、競技人口の減少はもはや野球だけの問題ではありません。ただ、競技人口が減ったとしても、観戦人口を増やすことはできる。どうすれば楽しんでいただけるかという視点は、これからさらに大事になるでしょう。最近では女性ファンがインスタ映えを狙って来場してくれるなど、新しいタイプのファンも増えています。野球という域を超えていかに娯楽として楽しさを提供できるか、それはこれからも続く我々のミッションです」

◇お仕事名鑑はパーソルの特設サイトからご覧いただけます。
https://www.persol-group.co.jp/special/pacificleague/index.html

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