【6の背中】千葉ロッテ・井口資仁編

2017-09-22 00:00 「パ・リーグ インサイト」マリーンズ球団広報 梶原紀章

その後の人生を変えたのはちょっとしたキッカケだった。だから、井口資仁内野手は実力があるのに結果を残せずに苦しむ選手を見ると若かりし頃の自分のように思え、なにかキッカケを与えられたらと手を差し伸べる。

「人生はちょっとしたキッカケで変わる。オレもそうだった」

ホークスで3度のリーグ優勝。メジャーで獲得したチャンピオンリングが2つ。帰国後はマリーンズを日本一に導いた男。誰もが背番号「6」が順風満帆な人生を送ってきたと思いがちだが、プロ入り間もない頃は苦しみながら自分のスタイルを模索する日々だった。

あれはホークス時代の00年のオフ。シーズン中に左肩を手術。チームはリーグ優勝を達成しジャイアンツとの「ON対決」で盛り上がる中、井口は54試合の出場にとどまった。自分の打撃スタイルを見失い、迷い込んでしまった袋小路から抜け出す道がまったく見えない状態で、シーズンは終了。高知での秋季キャンプに突入した。そこで島田誠コーチから言葉をかけられた。

「同期の連中も活躍しているし、悔しいだろ。どうしたらいいと思う?何でもいいからタイトルを獲る事だよ。お前の同期の連中もまだ誰もなにもタイトルを獲っていない」

今まで聞いたことのない助言だった。決して簡単な事ではないが、その檄は若かりし頃の井口の胸の奥に突き刺さった。目の前に立ち込めていた暗雲がスッと消えていくような感覚を感じた。では、何のタイトルを狙う。熟考した。様々な状況をふまえ目指すべき目標が徐々に浮かんできた。それが盗塁王のタイトルだった。

99年には14盗塁をマークしている。そして目標のためには40盗塁ぐらいが現実的な数字となる。これまでは積極的に狙っていたわけではない中でマークした数字。しかも打撃と違い、走りには好不調の波が少ない。ゴールまでどのように進めばいいか。頭の中で計算をするうちに道筋がハッキリと見えた。だから、明確な目標として「盗塁王」に定めた。

「大きな目標も逆算して小さく分解すれば達成する可能性が見えてくる。1シーズンは6カ月あると考えると1カ月5盗塁で30盗塁。最低でも週に一つ成功させていけば、そこそこの数字になると考えると、気持ちが楽になった。」

具体的な目標に向かっての挑戦の日々が始まった。自宅のカレンダーには盗塁をするたびにシールを貼って、より自覚を持って挑んだ。明確な目標に向かって突き進む事で気持ちに変化が起きた。それと同時に技術的な変化も感じることができた。大きな発見だった。

「盗塁を成功するために、より考えて野球をするようになった。配球、クセ。いろいろな状況を観察するようになった。すると、今まで見えなかったものが見えるようになった」

現実的な目標を設定し、それに向かって無我夢中で挑む行為が井口を変えた。何かを一つずつ成し遂げていく達成感も楽しかった。なにより角度を変えて野球を見ることで新たに見える景色があった。結果的に01年シーズン、140試合に出場。打率.261、30本塁打、97打点。44盗塁で盗塁王を獲得すると同時に打撃部門の他の数字も大きく伸ばした。目標を設定し、それに向かい突き進んだことで思わぬ副産物を生んだのだ。

「人生、ちょっと角度を変えてみることで変わる事はあると思う」

あれから長い月日は流れた。日米通算2000本安打を達成し、通算250本塁打も記録。9月24日のファイターズ戦(ZOZOマリンスタジアム、14:00試合開始)にて日本中が注目をする中、21年にわたる輝かしい現役生活に別れを告げる。数ある実績の積み重ねは様々な人の支え、アドバイスから成り立っている。そして、ちょっとした一言がキッカケで栄光の日々は加速した。

今、歩んできた道のりを振り返ると、人生における具体的な目標を持つ大切さ、そして設定した目標に向かって邁進する日々の尊さがキラキラと輝いて浮かんで見えるような気がする。

井口は8月下旬の一軍登録抹消後、若手に混じってロッテ浦和の二軍球場で体を動かし続けた。20歳以上も年下の選手がいる中で色々なアドバイスを行うなど精力的に接してきた。人生はちょっとしたことで変わる。だから、伝えたい想いがあった。キッカケを作ってあげたかった。その効果が分かるのはもう少し先の事だろう。でも、一つだけ言えることは井口と会話を交わした若者たちの表情はみんな颯爽と輝いて見えた。確かに、確実に若者たちの心に大ベテランの想いは伝わっている。今はそれだけでワクワクする。井口の作ったキッカケがどのような花を咲かせることになるのか。背番号「6」はグラウンドを離れても、その想いはこれからも語り継がれていく。