日本とはもはや別物?メジャーリーグのトレード事情

2016-06-26 00:00 「パ・リーグ インサイト」新川諒

シーズンが開幕してから日米共に3ヶ月近くが経過しようとしている。オールスターファン投票の中間発表も行われ、ファンも現場も、迫るオールスター休暇の予定を立て始める頃だろう。遠征をあと数回こなせばやってくる激戦の中の一休み。オールスターに選出された選手たちは多忙なスケジュールとなるが、優勝をかけた真剣勝負から離れて精神的にリラックスできる期間となるはずだ。

一方でオールスター期間が迫ってくるということは、トレード期限日が迫っていることも意味する。メジャーリーグでは「ノン・ウェーバー・トレードデッドライン」(トレード期限日)はシーズン中の一つの分岐点とも言える。優勝を目指すチームと、優勝争いから脱落して来年以降に向けてチーム作りをするものと、明暗がくっきり分かれる時期だ。

メジャーリーグではすでにトレードの噂が話題の中心となっている。株式市場の話をしているかのような「バイヤー(買い手)」と「セラー(売り手)」という用語が飛び交い、どこがファイヤーセール(主力を大量放出すること)を行うかという注目が集まっている。これほどトレード市場が活発化するメジャーリーグに比べて、なぜ日本では活発化しないのだろうか。

明確な点を挙げれば、リーグの規模、そしてチーム数の違いが大きな要因だろう。

メジャーリーグは30球団で構成されているが、それでも同地区同士のトレードは各球団避けたいというのが本音だ。放出した有望な若手が同地区で活躍してしまうと、手塩にかけて育てた上にライバルの戦力として機能すれば、放出したチームにとっては倍のダメージとなる。そのため優勝争いから脱落したチームが中心選手を放出し、優勝争いをしている球団からプロスペクト(有望な若手)を獲得するのが一般的な図式だ。若手を放出してのトレードは今年の優勝を目指す余りに長期的なチーム作りを犠牲にするリスクが伴う。

プロ野球ではセ・パ両リーグ6球団ずつでペナントレースを戦う。それぞれ上位3球団がクライマックスシリーズに進出できることから、優勝を諦められるチームは夏の時点では現実的に存在しない可能性もある。そのためトレードに踏み切ることが難しくなってしまう。

2016年、パ・リーグでは開幕早々の4月1日に、北海道日本ハム・藤岡好明投手の横浜DeNAへのトレード、4月12日には北海道日本ハム・乾真大投手と巨人・大累進選手とのトレード、計2つが成立した。

昨年のシーズン中トレードは、6月11日に発表された北海道日本ハムと巨人で行われた2対2のトレードのみ。北海道日本ハムから外野手の北篤選手、リリーフ投手の矢貫俊之投手との交換で、巨人から矢野謙次選手と須永英輝投手を獲得したものだった。

このトレードを見ると、両チーム勝利のために必要なポジションを獲得したトレードに映る。両チーム戦力が整っているポジションを放出し、穴となっているポジションを加入選手で埋める目的だっただろう。両チームともにシーズンを諦めるトレードでなく、勝つための補強をしている。

メジャーリーグで両チームが今シーズン戦力アップするためのトレードが皆無なのかと言えば、そうではない。だが両者が必要なポジションを埋めるためのトレードは、シーズンオフに行われることが多い。そのためシーズン中のトレードは、両チームの思惑がはっきりとしたものが多い。

私もこれを目の当たりにした経験があり、2008年から2年間クリーブランド・インディアンスでインターンをしていた時だ。前年プレーオフでニューヨーク・ヤンキースに競り勝ち、ワールドシリーズ進出まであと一歩というところでボストン・レッドソックスの前にアメリカンリーグ・チャンピオンシップシリーズ第7戦で敗れた直後のシーズンだった。

再びプレーオフを目指して戦っていたチームだが、シーズン序盤から波に乗ることができずに成績が上がらなかった。そのためシーズン終了後にはFAとなる選手のトレード話がメディアを賑わすようになった。

そして2008年7月にチームのエースであるCC・サバシア投手をメジャー経験のない4人の若手とトレードすることとなった。この4人中、現在もインディアンスの一員としてプレーしているのは、マイケル・ブラントリー選手のみだ。有望な若手とのトレードも全てが成功するとは限らず、リスクを伴っていることを象徴するようなトレードとなってしまった。

だがトレードのもう一方の見方がある。サバシア投手の契約はこのシーズン終了後には切れるものだった。メジャーを代表する投手になったサバシア投手にインディアンスが新たな契約を提示し、資金力で豊富な球団に勝つことは難しいと思われていた。シーズンが終わりタダで他球団へFAとして出ていかれるのであれば、その前に見返りを貰っておこうという考えも含まれていたはずだ。

2009年に入ってインディアンスは立て直しを図るが、成績が上がらず完全に「再建モード」へと突入する。先発ローテの柱であったクリフ・リー投手、オールスター捕手のビクター・マルティネス選手と、次々に主力をシーズン中にトレードすることになった。

私は当時広報部のインターンとして勤務していたことから、いつでも記者会見をする準備、そしてメディアに発表するプレスリリースの下書きなどに追われる日々だった。

トレード期限日付近になり、チームの負けが続けば球団内部ではいつトレードが実行されてもおかしくないという空気感が自然と漂う。学生ながらその場を経験できたのは、大変貴重だったことは言うまでもない。

日本のプロ野球では信じられないようなトレードが、メジャーリーグではこれから今シーズン中いくつも起こるだろう。有名選手の名前が見出しを飾るのは間違いないが、実は見出しの下にある本文に記されたマイナーリーガーの名前も気にかけておくと、また違った楽しみ方ができるかもしれない。

1つのトレードを見てもそれぞれのチームの思惑、そしてチーム作りの信念などが見えてくる。これを舵取りするのがGM(ゼネラルマネジャー)や、その下でいろいろなデータやスカウトのレポートを取りまとめる「ベースボール・オペレーションズ」の人間たちだ。

過酷な野球界では、彼らの入れ替わりも選手同様に激しい。GMや球団社長が代われば、再びチーム作りの信念が変わる。人が代われば、考えが変わる。

トレードが頻繁に行われる理由は球団同士の競争が生み出すものであることに間違いないが、この目まぐるしいほどの人の入れ替わりが、その原因でもある。人の入れ替わりが止まらない限り、トレードの波も静まることはないだろう。